宮崎駿の「風の谷のナウシカ」に登場する生命体・王蟲(オーム)は、高度な知性を持ち、集団で行動する社会性もあり、さらに地球の生態系に大きな役割を果たしています。これにそっくりで、実在するのがゾウです。

王蟲と同様に身体の大きなゾウの脳は5~6キロもあり、陸上の動物では最大です(大人の人間の脳は1.2~1.5キロ)。人間の脳と同じような複雑な構造をしていて、イルカや犬と同じように芸を覚え、人間の言葉を理解する高度な知性を持っています。

このゾウを特別な存在としている国が、タイです。「象使い」と呼ばれる人々がいて、かつては首都バンコクでも、ゾウと一緒に街中を歩いている姿を見ることが出来ました。「ゾウのお腹の下をくぐると願い事がかなう」とタイでは言い伝えられていて、町のおばちゃんなど人々が象使いにお金を払い、身をかがめてゾウのお腹の下をくぐっていたのです。

タイでは「鼻で筆を持ち、絵を描くゾウ」とか、「チームを組んでサッカーをするゾウ」など、象使いとゾウの芸をいろいろと見ることが出来ます。象使いの村もあって、代々、象使いを生業とする村人がゾウと一緒に暮らしています。その村を撮影したことがあるのですが、高床式の家の下がゾウの定位置。毎朝、村の通りをゾウと村人がぞろぞろ歩き、近くの池へ水浴びをしに行きます。その道すがら、ゾウがうんちとおしっこをする姿を初めて見て、そのうんちの巨大さとおしっこの量にビックリ仰天したものです。

象使いはカンボジアとの国境地帯の深い森に入り込み、野生のゾウの子供を捕らえてきて育てます。捕らえるときに使う縄が、家の神棚みたいなところに祀られていて、ゾウと村人の特別な関係を示していました。

タイには、「カオヤイ国立公園」という野生のアジアゾウが生息する世界遺産もあります。ゾウは母系集団、つまりメスと子どもたちで群れを作り、年齢が高く最も経験豊かなメスが先導してジャングルを移動しながら生活しています。

2019年、カオヤイ国立公園内の大きな滝でゾウ11頭が水死、2頭が救出されるという事件がありました。増水期でまず子ゾウが滝の上から転落、救いを求める子ゾウの声に応えてようとして群れの他のゾウも次々と転落。滝壺から脱出できず、群れ13頭のうち11頭が死亡し、生き残って鳴き叫んでいた2頭を公園のレンジャーが発見し救出したのです。アニメのナウシカでは捕まった子供の王蟲がおとりにされ、王蟲の群れが酸の海に突進するシーンがありましたが、それを彷彿とさせる出来事です。ゾウも集団の絆が強く、群れ全体で子供を守るという社会性を持っているのです。

また王蟲と同じように、ゾウも生態系に大きな影響力を持っています。先日、日本のテレビとして初めてガボンの世界遺産「イヴィンドゥ国立公園」を撮影しました。東京都よりも広い密林の中に大河イヴィンドゥが流れ、アフリカ中部最大の滝もある自然遺産です。

深い森の中に入り込んでいくと、ぽっかりと木の生えていない、まるで整地されたような空間が現れます。実はここ「バイ」といい、なんと本当にゾウが整地した場所なのです。

イヴィンドゥに生息しているのはマルミミゾウという種類のゾウなのですが、バイにはミネラルを豊富に含んだ泥があり、ゾウはそれを食べにやってきます。何百年もの間、数え切れないほどのゾウが泥を食べに来た結果、木はなくなり、地面は踏みしめられて整地され、人工的ならぬゾウ工的な空間が生まれたのです。