南米のアンデス山脈は、世界遺産の宝庫です。今回は、一度は行ってみたい世界遺産の数々を紹介しつつ、なぜこの山脈に世界遺産が多いのかをひもときます。
(執筆:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太)

毎日2メートルも進む氷河

アンデスは、南北7500キロつづく長大な山脈。その南端にある世界遺産が「ロス・グラシアレス国立公園」(アルゼンチン)です。ここは南米最大の氷河地帯で200を超える氷河がありますが、特におすすめなのがペリト・モレノ。この氷河は流れる速度が早く、毎日2メートルも進むのが特徴です。

ペリト・モレノ氷河

アンデス山中から麓の湖まで全長35キロのペリト・モレノ氷河は、後ろから流れてくる氷にところてんのように押し出され、湖へと崩落していきます。番組で崩落の瞬間を撮影したのですが、高さ70メートルもある巨大な氷の壁が崩れ、轟音と共に水面に落ちていく様は、まさにド迫力です。

さらにロス・グラシアレスには標高3400メートルを超える名峰、フィッツ・ロイもあります。こうした山々に太平洋から吹く湿った風がぶつかって雪を降らせ、それが氷河の源となっています。

フィッツ・ロイ
フィッツ・ロイ

広大な熱帯雨林の森

一方、アンデス山脈の北に目を向けると、広大な熱帯雨林の森「マヌー国立公園」(ペルー)もあります。この世界遺産には、ワニと戦う巨大なオオカワウソやジャガーなど、貴重な動物が生息しています。

国立公園を流れるマヌー川はアンデスを水源とし、その水が豊かな森と生き物を育んでいます。このように、アンデス山脈は南北に長いため変化に富んだ自然を持ち、それが氷河から熱帯の森までさまざまな自然遺産を生んでいるのです。

「南米のグランドキャニオン」

アンデス山脈の東側にあり、「南米のグランドキャニオン」と呼ばれているのが世界遺産「ウマワカ渓谷」(アルゼンチン)。ここは「七色の丘」や「14色の山」などカラフルな景観が見どころです。

14色の山

アンデス山脈は太古、大陸プレートがぶつかり合って隆起し生まれました。そのときの圧力で積み重なった地層がねじ曲がり、やがてバームクーヘンの断面のように地表に露出。地層各層はそれぞれが含む鉱物などによって赤、黄、緑と色が異なるのですが、その鮮やかな色の変化が虹のような丘や山を生んだと考えられています。

七色の丘

実はウマワカ渓谷は文化遺産で、1万年にわたって人や物が行き交ったアンデスの交易路として世界遺産になっています。南北155キロつづく渓谷は、それ自体が昔から先住民の移動ルート=道だったのです。番組で撮影してビックリしたのが、富士山ほどの高地でありながら、渓谷には800年前すでに広大な農地が作られていたこと。そこで栽培されたジャガイモやキヌア(近年、スーパーフードとしてもてはやされていますがアンデス原産です)、近くの塩湖で作られる塩などが、交易品として先住民によってアンデス各地に運ばれました。今でもラクダの仲間・リャマに荷物を載せ、渓谷を行き来する先住民の姿を見ることが出来ます。

交易の道、ウマワカ渓谷はかつてインカ帝国の隊商も行き来しました。このインカ帝国の存在が、アンデスに世界遺産が多い第二の理由です。

インカ帝国の遺跡「マチュピチュ歴史保護区」

インカ帝国が首都としたクスコは標高3400メートル、アンデス山脈の中にあります。この街もペルーの世界遺産になっていますが、最も有名なインカ帝国の遺跡が世界遺産「マチュピチュ歴史保護区」(ペルー)。高い山の尾根に精巧な石積みの建築物や石垣が並び、水路が張り巡らされた様子はまさに「天空の遺跡」です。