白血病の休養を経て、今年5年ぶりに個人種目での日本代表入りを果たした競泳・池江璃花子(23)。代表発表会見では「強いIKEEが戻ってきたと証明したい」と強い決意を語った。再び世界の舞台へと戻ってきた池江は、この夏どんなレースをみせるのか。共にリオ五輪を戦ったチームメイトであり、長く取材を続けてきた松田丈志さん(39)が日本代表内定直後の池江にその思いを聞いた。

代表選考会を振り返って—

松田さんと池江選手

松田丈志:
まずは5年ぶりに個人種目で日本代表に入りましたが、代表選考会を振り返ってどのように感じていますか。

池江璃花子:
まだ自分が代表に入った実感が湧いていなくて、ちょっと気を張っている状態というか。言葉じゃ表現しづらいんですけど、そわそわしている。昔から日本代表に入ってきているので代表としての自覚はあるんですけど、まだちょっと落ち着いていないというか。本当に代表選考会が終わったのかな…みたいな気持ちになっていますね。

松田丈志:
それはやっぱり代表として頑張らなきゃという気持ちがあるということですか?

池江璃花子:
今までも「よし本番に向けて頑張ろう」という気持ちにはなっていたんですけど、今回は個人種目で代表に入ったということもあって、今まで以上に本番に対しての気持ちは強いような気がしています。

前人未踏のアジア大会6冠達成—

闘病前に出場した2018年のアジア大会ジャカルタ。6日間で13レースを泳ぎ切った池江は、前人未踏の6冠を達成し、大会MVPにも選出された。

池江璃花子:
もう5年前なんであんまり覚えていないんですけど、ジャカルタは環境が完璧だったわけではなかったんですが、最初の4×100mフリーリレーで優勝したところからすごく気持ち的にも盛り上がって、そこからは楽しさの方が強かったと思います。最終日の50m自由形が6冠のかかっている一番最後のレースで、中国の選手が自分よりも自己ベストの速い選手で「勝てないかもしれない」って思っていたんですけど、いざレースをしたら勝ててそれがすごく嬉しかった。疲れている中でもすごくいいレースができていたんじゃないかと思っています。

松田丈志:
あの時の戦いぶりを6日間見させてもらって、僕がすごいなと思ったのは、恐らく日に日に疲労も溜まってコンディションも厳しい状況もあったと思うんですけど、その中で最後まで自分の決めた目標に対してやりきる姿を見せてくれたなと思って。ご自身ではどのような気持ちのコントロールをしていたんですか?

ヨーロッパ遠征

池江璃花子:
その年の6月にヨーロッパ遠征に行ったんですけど、私の寝る場所はソファーが簡易式ベッドになるタイプで本当狭くて硬いベッドで寝る感じでした。それにモナコ大会はトーナメント形式のレースなんですけど、そういうタフなレースの中でも最後に日本記録を出したりとか、2018年はそういう環境でレースをやってきていたので、アジア大会でも最後まで頑張れたのかなと思いますね。

松田丈志:
そういう経験が大事なときの勝負強さに繋がってくるっていうのはあるんですね。ちなみに、この5年間ツイッターで、アジア大会のときの結果をずっと(一番上に)固定していますよね。どういう気持ちで固定してたんしているんですか?

池江璃花子:
そろそろ消そうかと思っています、いつまでも過去の栄光に引っ張られていると思われたら嫌だなと思って(笑)。でも6冠なんて本当に自分がやったことだとは思えない。いつ見てもすごいなって思えるような、そんな写真だと思っています。

パリ五輪に向けた成長の一年に—

池江璃花子:
来年のパリ五輪に向けても、今年の試合ではしっかり準備をしたいと思っています。海外の選手、アジアの選手たちの様子を見るという意味でもすごく重要な試合にはなってくると思うので、気持ちは入れておきたいと思います。

松田丈志:
やっと次の進化に向けてステップが踏めるときが来たのかなって思っているんですけど、どうですか?

池江璃花子:
2021年の東京五輪から日本代表に戻ってきて、そこからいろいろ経験はしてきたとはいえ、ずっと国内にいて自分の殻に閉じこもっている状態でもあった。自分が羽ばたきたい、そういう世界がここ数年なくて殻に閉じ込もっている感じだったので、今年からは本当に成長したいですね。もう日本人にライバルがいないという環境を取り戻したいと思っています。

松田丈志:
そういう意味では、これから海外遠征に行って海外の選手とも戦って「池江璃花子が世界に戻ってきたぞ」というのを示すときが近づいてきているのかなと感じるんですけど、池江さんとしてはどのように「池江戻ってきたぞ」と見せていきたいですか?

池江璃花子:
もちろん結果を出すというのも大事ですし、結果を出したいというのが一番ありますけど、とにかく決勝に残れるようになるとか、予選から先に進むことがとにかく大事になってくると思う。100mバタフライは特に今は自分のレベルが低いので、それでも準決勝くらいには残りたいなと思っています。今世界で戦えるって思うだけでワクワクしてきました。

松田丈志:
最後に久しぶりに世界に羽ばたく池江さんの今シーズンの目標を聞かせてください。

池江璃花子:
今シーズンは世界選手権、アジア大会(9月23日開幕)と2大会続くんですけど、どちらもすごく重要視しています。もちろんアジア大会は前回大会MVPを取っていたりするので、すごく注目はされると思います。久しぶりに海外で試合ができるということで、今の自分の殻を破り破って脱ぎ捨てて、来年に向けてどんどん成長していきたい。とにかく今年はしっかり自分の本来持っている力を発揮できるようにするとか、自分の苦しかった環境の中から一歩脱け出せるという気持ちもあったりするので、羽ばたく一年にしたいなと思います。池江さんには追いつけないやと思われるような、そういうレースをしていきたいなと思います。

ヨーロッパ遠征での池江選手

■池江璃花子(いけえ・りかこ)
2000年7月4日生まれ、身長172cm。東京都江戸川区出身、日本大学卒業。
3歳で水泳を始め、中学3年生の時に世界選手権、高校1年生の時にリオ五輪に出場した。2018年アジア大会では史上初の6冠達成&MVP獲得。その後2019年2月に白血病と診断され、闘病生活を送った。2020年8月に実戦復帰を果たし、翌年の東京五輪にはリレーメンバーとして出場。現在13個の日本記録を保持している。9月23日開幕のアジア大会にも出場予定。

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