大阪・夢洲のIR用地の賃料の鑑定を巡って、府と市でつくる大阪港湾局が「存在しない」としたメールが198通も「存在していた」問題。開示されたメールではこれまでの説明とは異なり、不動産鑑定業者から意見を聞いて条件を提示した約1か月前に大阪港湾局から「IRを考慮外」とする条件を提示していたことがわかりました。

大阪・夢洲のIR(カジノを含む統合型リゾート)用地の賃料の鑑定を巡って、大阪港湾局が市議会や情報公開請求に対し、「存在しない」と説明してきたメールについて、今年3月、職員が「存在していた」ことに気付きました。その約4か月後の7月3日、大阪港湾局は198通のメールが「存在していた」と初めて明らかにして、謝罪。7月14日、メールを全て公開しました。

公開されたのは2019年9月から2021年3月にかけて大阪市が不動産鑑定業者や市の内部でやりとりした内容などで、約1200ページにも及びます。

大阪港湾局が公表している鑑定評価の概要

IRの誘致を巡っては、賃料について、鑑定業者4社のうち3社で価格などが一致していたほか、「IR事業は考慮外」として鑑定されたことから、今年4月、市民グループが「IRを考慮外にして、不当に安く決められた」などと訴え、裁判を起こしています。

大阪港湾局が公表しているIR考慮外の条件設定に関する調整経過

大阪港湾局はこれまで「IRを考慮外」とする条件について、2019年9月下旬、鑑定業者1社から「IR事業は国内実績もなく、評価上考慮することは適切ではない」という意見を受け、10月上旬に、大阪港湾局から鑑定業者4社に「IRを考慮外」とする条件について意見を求め、10月中旬に鑑定業者4社から妥当との意見を得たことから「IRを考慮外」と提示したと説明してきました。

最初に鑑定業者4社に送ったメール資料・2019年9月12日

公開されたメールでは、大阪港湾局が9月12日に、鑑定業者4社に対し、賃料の鑑定をどのようにおこなっていくか方針を尋ねる文書を送信しています。

当初は条件を記入できる欄は、空欄としていました。

不動産鑑定業者1社が大阪港湾局に返信した内容・2019年9月13日

翌日の9月13日、鑑定業者4社のうち1社が条件の欄に「IRを考慮外」とする方針などを回答して大阪港湾局に返信。

大阪市が鑑定業者3社に送ったメール資料・2019年9月13日

これを受けて、大阪港湾局は、約4時間後、残る鑑定業者3社に対し、「IRを考慮外」とする条件などを書き加えて、賃料の鑑定の方針を尋ねる文書を再送しました。

3社は9月17日から19日かけ、港湾局に対し、この条件のままで回答しました。

これまでの説明とは異なり、不動産鑑定業者から意見を聞いて条件を提示した約1か月前に大阪港湾局から「IRを考慮外」とする条件を提示したことについて、次のように説明しました。

大阪港湾局の会見(7月14日)

(大阪港湾局営業推進室・田邊朝雄室長)
「メールが発見されて初めてこのやりとりを知った。あくまで仮の条件として、こういう(IRを考慮外とする)条件を設定しようとして、メールでもこういうやり取りがあったということであって、我々として最終的にIRを考慮外としたのは、改めてメールで所見を確認して、条件を設定をしたのは10月中旬」


Q:依頼を受けた鑑定業者側からすると、依頼主の大阪港湾局が「IRを考慮外」とする条件の記載を入れたら、依頼の条件を細かく指定してきたと受け止めるのが普通では?

(大阪港湾局営業推進室・田邊朝雄室長)
「我々としては、一方的にIRを考慮外とする条件設定として押し付けたという認識はない。不動産鑑定士側も依頼者の指示が妥当なものでなければ拒否することが義務づけられている。このやりとりでもって、大阪市が一方的に依頼者の権限で押し付けたという認識は持っていない」

Q:1社が「IRを考慮外」とする意見でも、あえてそれをほかの3社に送る必要がないのでは?「IRを考慮外」とする条件を書いたものを送るというのは、大阪港湾局側がそういう条件で鑑定してほしいという、働きかけがあったのではないか?今までの説明と齟齬がないと判断できるのか?

(大阪港湾局営業推進室・田邊朝雄室長)
「先ほどから申し上げている通り。これまでの説明と齟齬があるとは我々は考えていない」

大阪港湾局は「あくまで仮の設定で、鑑定業者の判断で変更することは可能だった」としました。

そのうえで、鑑定業者1社から「IRを考慮外」とする条件で、“4社で足並みを揃えた方がいいのではないか”という意見を受けたのは、9月25日だったと明らかにしました。IR予定地の夢洲を鑑定業者1社と現地視察した際に口頭で伝えられたためメールは残っていないとしていて、意見を伝えてきたのは一番最初に「IRを考慮外」とする条件の方針を返信してきた鑑定会社だということです。公開されたメールにはこれまでの説明と異なる内容が含まれていましたが、大阪港湾局は「これまでの説明に齟齬はない」としています。

一方、市議会の質疑でメールは「存在しない」と説明されてきた市議はメールの公開を受け、怒りをあらわにしました。


(自民党・前田和彦市議)
「議会に対して虚偽の説明をしていた。1200ページにわたる情報が開示された。この資料があったならば、議会でより踏み込んだ質疑が可能であったということを思うと、悔しさと憤りしかない」