「格上選手の速い動きに対応するための練習を」と山下

今年3月の東京マラソンで2時間05分51秒(日本歴代3位)、世界陸上代表を決めた山下一貴。そのときに話題となった“いちたかスマイル”が、深川では見られなかった。29分16秒31の17位。

「前半4000mくらいまでは、後ろの集団でしたが自分のリズムで先頭を走れていました。しかし抜かれたときに固まってしまい、粘ることができませんでした」

山下の10000m自己記録は、マラソンが日本歴代3位ということに比べれば著しく低い。10000mの日本歴代3位は27分25秒73だが、山下の自己記録は28分31秒89である。マラソンの適性の高さを物語っている、と言えなくもないが、世界で戦うことを考えると、もう少しなんとかしておきたい。

「黒木純監督とは、ここでしっかりスピードを上げた走りをして、自己記録を更新しようと話して臨みました。自己記録は大して速くないですから。しかし予定よりも遅かった。このあと1回叩くか(スピードを上げるか)、地道に距離を走り込む練習をやっていくか、監督と相談して決めていきます」

予定では深川大会から中2日で、負荷の大きいメニューの40km走を行う。駅伝に向けての練習を行いながら、マラソン練習も行うのが三菱重工チームの特徴である。トラックレースに出ながらマラソン練習も行うのは、“いつものこと”なのだ。

山下は世界陸上が4回目のマラソンになる。自身初の夏のマラソンになるが、「ハンガリーの朝方は涼しいので、これまでと変わらない練習になります」と言う。気象条件よりも、レース展開の違いを考慮した練習になる。

「今まではペースメーカーに30kmまで引いてもらって、そのあとをどうするか、というレースでした。世界陸上はどこで動いてもおかしくないマラソンになります。格上の選手ばかりですし、その選手たちの速い動きに対応するための練習をしていきます」

22年のアジア大会代表だったが、延期となったため出場することができなかった。世界陸上ブダペストが初の代表レースになる。

「楽しみが大きいですね。東京は違いましたが、2回目のマラソンの大阪は一番にならないと、という気持ちで走りました。世界陸上は1位でも、2位でも、3位でも、大金星です。プレッシャーというより楽しみです」

世界の強豪ランナーが大挙出場した今年の東京マラソンでは、優勝や日本人トップよりも、自己記録を狙って30kmを過ぎてペースアップした。レース毎に目標は違っていたが、自身が力を出し切るための精神状態を作る方法を、山下は自然と身につけている。ブダペストに向けても、気負わずにトレーニングを継続していく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)