戦車やミサイルの製造能力が低下したロシアは自爆ドローンを多用してウクライナを攻撃し続けている。そのドローンはイラン製。安価で大量に買い付け、カスピ海経由でイランからウクライナ国境近くの拠点に運ばれてくる。更に今、ドローンを国内製造するための工場も建設中だ。
一方、先日モスクワが攻撃された際、使われたのもドローンだった。やったのはロシア内の反プーチン派とみられるが、使用されたドローンはウクライナ製だった。これほどまでにドローンが“兵器”として活用されたことはない。そして、ウクライナではドローンをめぐって、ひとつの国家プロジェクトが動き出していた・・・。

「今の戦争は技術の戦い。ドローンが製造されるスピードの戦い」

戦時下のウクライナで6月1日、国が主催してドローンの性能を競うコンテストが催された。
14の民間企業や団体が参加したこの大会で優勝したのは、ボランティアが中心の市民チーム。彼らは今年になってドローンの開発を始めたばかりだという。優勝チームの代表は”チャンピオン”と手書きしたドローンを手に語った。

ボランティアのドローン開発チーム代表 イワン・ポドリャンさん
「優勝するなんて思ってなかった。自分のドローンを色々な障害物の中で試したかっただけ」

大会では移動中の標的を攻撃する能力、停止した目標を攻撃する能力、さらに操縦を妨害する電子戦装置が稼働している時の飛行能力など、実際の戦争を想定した動きばかりが競われた。実はこの競技会、ロシアとの戦争にドローンを供給することを目的として開発と製造を支援する国家プロジェクト“ドローン軍団”の一環として行われた大会だった。

“ドローン軍団”は戦争が激化した去年7月に立ち上られたプロジェクトだ。ウクライナ政府は今年約720億円をドローン関連に投入するという。
“障害物の中を試したかっただけ”と笑顔で語ったポドリャンさんも、自分たちが開発するドローンが兵器として使われることをわかって作っている。だから攻撃能力については一切話せないと前置きしたが、パーツは一般に流通しているもの使っているという。しかし・・・

ボランティアのドローン開発チーム代表 イワン・ポドリャンさん
輸入した部品を使う。残念ながら部品は中国製がメインで、それに関連した問題もある。この戦争における中国の立場に確信が持てないから…。それに中国は遠いので部品が届くまでに時間がかかる。必要な部品を素早く調達するためにも部品の国産化をしたい。(中略)世界中にドローンを自作してコンテストに参加する人たちがいる。ウクライナにも趣味でドローンを自作する人がたくさんいて、操縦のルールも理解している。そういう人たちがボランティアで参加してくれた。同じようなグループはいくつもあって、ウクライナの防衛に必要なドローンを開発し、製造するチームが数百あると思う」

みな祖国を守るために自分たちが趣味として磨いてきた知識と技術を生かすチャンスだと頑張っている。だがドローン技術はロシアでも発展しているので、兵器としてのドローンの開発競争に勝つのは容易ではないという。

ボランティアのドローン開発チーム代表 イワン・ポドリャンさん
今の戦争は技術の戦い。ドローンが製造されるスピードの戦いだ」

ポドリャンさんたちのドローンは立横30センチほどの一般でも見かけるサイズのドローンだ。
安価で大量に製造できるこの小型ドローン兵器がゲームチェンジャーになるとも言われている。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「軍用の大型ドローンじゃなくて、小さなドローンってこれまでどの国の軍需産業も目をつけてこなかった。伝統的な軍需産業や軍隊からこういうものは生まれてこないので、民間の中の“オタク”みたいな人達の知恵を吸い上げるしかない。アメリカの場合はDARPA(国防高等研究計画局)という国防省の中の機関が色んなコンテスト開いて“これができるオタク集まれ”ってやる。すると大学や在野の人たちが集まって“我々の技術は凄いよ”って見せてくれる。その中から一番有望なやつを買い取って兵器化する。ウクライナも今まさにそれをやっている。それだけドローンの国産化を急いでいる」

実はこのドローンこそが戦争を変える革命的存在だという。大昔、青銅の時代を鉄の出現が変えたように…