ロシア当局の発表によると、5月30日モスクワに8機のドローンが飛来。うち5機を地対空ミサイルで撃墜、3機を電子戦システムで制御不能としたという。制御を失ったドローンの1機は民間のマンションに激突。外壁と窓ガラスを激しく破壊した。公開された写真を見ると、モスクワも戦場と化したかのようだった。ゼレンスキー大統領はモスクワ攻撃と関連させたわけではないが動画で「決定は下された」と話した。果たして、このロシア領の攻撃から専門家は何を読み解くのか・・・。
「ドローンが“ウクライナ製”ってところが肝」
ミサイルで撃墜された5機のドローンは、モスクワ郊外の高級住宅街から遠くないエリアに墜落している。プーチン氏が住む公邸からも近く、最も近いものは5キロほどの場所に墜落していた。どこからの攻撃か、誰による攻撃か、今のところ何もわかっていないが、ウクライナ側は「直接的には関与していない」とし、プーチン氏は「市民を怯えさせる道を選んだテロ行為だ」と非難した。

東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「ロシアにとってはショッキングだと…。特に、このノボ・オガリョボというプーチン氏の住居がある場所の周りに、ずいぶん落ちてる。これは明らかにドローンを放った側は殺害できると思ってやったかは別として“プーチン、お前の住んでる場所の周りにドローンをぶち込んだぞ”っていうメッセージは送ったことは間違いない。(中略)ロシアにしてみればメンツ丸つぶれ。それから制御不能になったドローンのうち二つが落ちたのは都心に近い場所。レーニン大通りであるとか市街地で、モスクワ環状道路“ムカッド”の内側、日本で言う東京23区内。その中にドローンが落ちた。これは市民の動揺もかなりあるんじゃないでしょうか」
今回、飛んできたドローンをすべて撃墜なり制御不能なりにしたというのが、ロシア側の発表だが、この出来事は大きな意味を持つと元陸上自衛隊の渡部悦和氏は言う。これまで受け身一辺倒だったウクライナが、首都モスクワを狙える飛び道具を持っていることを見せつけたというのだ。

元陸上自衛隊 東部方面総監 渡部悦和氏
「写真などを見ると使われたドローンは『UJ22』という800キロくらい飛ぶウクライナ製のドローンなんです。この“ウクライナ製”ってところが肝で、アメリカ製ならこんなことは絶対許さない。ウクライナ製であるから、今回侵略されてるんで、それに対しての反撃。これは国際法的に認められる。そういうものを持っているってことを示したのが重要。もうひとつ重要な点。ウクライナ国内から飛ばしたんだとすれば500キロくらい飛んで来てる。その間に撃ち落とせていないんですよ。つまりロシアの防空能力が明らかに低いということ」
ロシアの防空システムの問題点は小泉氏も指摘する。
「時速200キロくらい。そんなのがふわふわ飛んで来たのに何で気づかないのか」
モスクワの中心に大統領府“クレムリン”がある。本来は、そこを中心に半径50キロの円周上に防空システム部隊が配備される。特にモスクワには『S400』という最新の防空システムが優先的に割り当てられ、世界一防空能力が高い都市と言われてきた。しかし・・・。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「どうやらモスクワの防空が、スカスカになっている気がするんですよ。(――ウクライナ攻撃に戦力を傾けたためか?)その影響はあると思う。防空システムが、ちゃんと機能していれば、これほどボロカスにやられない。今回使われた『UJ22』は割と大きい機体で、ステルス性能があるようなものではない。それが全く見えなかったとすれば、防空自体に問題があるとしか思えない。ウクライナの国境でクレムリンに一番近い所を線で結ぶと450キロくらい。この距離をプロペラ式ですから時速200キロくらい…。そんなのがふわふわ飛んで来たのに何でモスクワまで気づかないのか‥‥。しかも5月3日にクレムリンに突っ込まれるという大失態をしているのに繰り返された。何か問題があるとしか思えない」