政府は6月1日の「こども未来戦略会議」で、少子化対策の拡充に向けた「こども未来戦略方針」の素案を示した。児童手当の所得制限を撤廃して、対象を高校生まで広げることなどが柱だが、財源問題は年末に先送りされた。RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演した元サンデー毎日編集長・潟永秀一郎さんが、具体的なシミュレーションをしながら児童手当の問題点を指摘した。
◆「選挙前に負担増の話はするな」解散風で財源問題先送り
予算規模は当面「3兆円台半ば」として、当初見込んだ3兆円からさらに5,000億円ほど積み増したんですが、財源をどう確保するかは、年末の予算編成までに結論を出す、としています。ありていに言うと、「これをします、あれもします」という“いい話”は具体的に並ぶけど、痛みを伴うかもしれない財源の話はぼんやりしたまま。岸田首相は「先送りという言葉は当たらない」と言いますが、これはやはり先送りでしょう。
背景にあるのは、解散風です。早ければ7月、遅くとも秋には衆議院を解散するんじゃないかという観測が強まる中、「選挙前に負担増の話なんかすると票が減る」という与党内の声です。でも、それってごまかし、有権者を馬鹿にした話じゃないですか? 「国民に実質的な追加負担を求めることなく進める」と言うなら、具体的に中身を示すべきですよね。
◆児童手当をもらっても扶養控除廃止なら「子育て罰」
実は、今回、対策の目玉になっている児童手当をめぐっては、旧民主党政権時代も含めて過去にも「話が違うじゃないか」というごまかしが繰り返されてきた経緯がありますので、まずはここからお話しします。
子ども一人当たり1万円の児童手当は、来年度から対象を高校生まで拡大して、所得制限も外す方針です。3人目の子どもからは3万円になります。
ただ、財務省は対象を高校生まで広げるなら、これまで高校生のいる家庭に認めていた扶養控除を無くすことを求めていて、これについて6月1日の会見では「検討課題」と述べるにとどまりました。もし扶養控除を無くした場合、年収が一定の水準を超えると、月1万円の児童手当をもらっても、かえって手取りは減る家庭が出る――いわゆる「子育て罰」になるからです。
◆所得制限こそ不平等で時代にも合わない
同じことは過去にもあったので、簡単に児童手当の歴史を振り返ります。日本の子育て支援策は長らく本当に貧弱で、今から半世紀前の1972年に児童手当が導入された当時は、5歳になるまで月額わずか3,000円。それも「3人目の子どもから」というのが、35年も続きました。
それが2005年、女性一人が生涯に産む子供の数=合計特殊出生率が過去最低の1.26を記録してようやく見直され、2007年6月からは、2歳まで月額1万円、3歳から小学6年まで5,000円が支給されるようになりました。ただし、年収が一定額を超えると支給されない「所得制限」付きでした。
「お金持ちまで支給する必要はない」というのは、当時、世論の大勢でもあったんですが、実はこの所得制限自体が不平等なんです。理由は所得の計算方法で、簡単に説明すると、例えば「夫の年収が1,000万円で妻は専業主婦、子ども1人」の家庭は夫の年収が上限を超えるので児童手当はもらえませんが、夫も妻も年収500万円の共働き家庭なら、夫の年収が限度額以内なので満額支給です。世帯年収は一緒なのに、です。これは、そもそもの制度設計が古いためで、共働き世帯が半数を超えた2000年代にはもうそぐわなかったんです。














