愛知県豊田市の取水施設「明治用水頭首工」で大規模な漏水が発生してから、5月17日で1年です。

大きな影響を受けた愛知の農業や工業の現場はどうなっているのでしょうか。


季節外れの暑さとなった17日、愛知県安城市にもギラギラと太陽が照りつけていました。

午前中は、ここでブランド米「あいちのかおり」の田植えが行われていました。


(米農家 木村直人さん)
「こうやって(水が)出てくるのは非常にありがたい。ずっと出なくなったのは初めてだったので」

田植えに欠かせない水、当たり前だと思っていた水が突然来なくなったのは、ちょうど1年前のこと。

あの時、この田んぼにも水が全くありませんでした。

2022年5月、矢作川から水を取り込む「明治用水頭首工」で大規模な漏水が発生。

川の底に穴があいて水位が下がり、農業や工業用の水を送れなくなったのです。

(農家:2022年5月取材)
「まだ、あそこにこれから田植えをする所があるが、水が来ないからできない」
「ことしは諦めている。水が来ないと何ともならん」


農業用水や工業用水の利用は約3か月間制限されました。

田んぼには水が行かず、トヨタ系の工場も一時、操業停止を余儀なくされました。

あれから1年…。


(米農家 木村直人さん)
「去年は(バルブを)開けても(水が)出てこない状態だったので大変な思いをした」

愛知県安城市の米農家、木村直人さん。

水が十分に使えなかった去年は、田植えの時期が遅れ、米の収穫量は2割ほど減りました。


ことしは例年通りの時期に田植えを始め、去年を上回る収穫量を見込みます。

(米農家 木村直人さん)
「一番大切な田植えの時期にスケジュール通りに作業ができるのはありがたい。制限もなく水を利用させてもらっているので、ことしの作付けに関しては消費者さんには期待してもらいたい」


「明治用水頭首工」で漏水が起きた原因は、川底のコンクリートが劣化したことなどによって、地下に水の通り道ができる「パイピング現象」と結論づけられています。

この1年間進められてきたのは、この穴をコンクリートなどで埋める応急工事。


水位が下がると、明治用水に水は取り込めません。

土のうやポンプで懸命に水位を引き上げることで、この夏は例年並みの水を確保できる見通しです。

基礎から建て替えるなどの本格的な復旧工事は、まだこれから。

「出水期」が終わる、ことし10月に始まり、工事が終わるのは2025年度中の予定です。


こうした状況で再び迎える雨の季節、河川工学の専門家は、こう指摘します。

(名古屋大学 田代喬特任教授)
「(頭首工が)流量をコントロールする能力は1割~2割減っている可能性がある。洪水が起きた時などに計算通り流量を制御したり、うまく水を流せたりするかは心配。インフラの寿命は一般的に50年といわれている中で、老朽化してもおかしくない。それが日本各地にあることを受け止めて、どういうふうに管理・維持していくのか考えないといけない」

ひとまず、田んぼに「水」は戻ってきましたが、1年前に突きつけられた課題は、今も残されたままです。