「赤ちゃんの心臓が動いているのが、確認できますね」

薄暗い診察室で、青白く光る画面に映る、新しい命。エコー検査を受けるきみちゃんは、静かに真っすぐ画面を見つめていました。赤ちゃんは元気に育っていますが、きみちゃんの表情は少し硬いままです。

29歳のきみちゃんは、からだは女性、こころは男性のトランスジェンダーです。きみちゃんのパートナー・ちかさんは、3歳年上。からだは男性、こころは男性ですが、日によって女性寄りの日もあって、好きになるのは男性だけ。

2人は「こころが男性どうし」のふうふです。

2人の間に宿った新しい命を、若手記者の「わたし」が見つめる連載企画。前回は、2人の「法的な結婚」に対する葛藤と、妊娠がわかったときの戸惑いについてお伝えしました。

ただ「こころが男性どうし」のふうふの妊娠に初めて向き合うのは、2人だけではありません。今回は、2人の気持ちとからだに、病院がどう向き合っていたか、お伝えします。
​(全4回の3回目/第1回第2回第4回を読む)

妊娠をした「僕」の葛藤

2021年11月19日。きみちゃんの30週目の妊婦健診です。



きみちゃんは、自宅がある千歳市から1時間ほどかけて、札幌医科大学附属病院の産婦人科に通院していました。

パートナーのちかさんは、なるべく健診に付き添うようにしていますが、この日は仕事。自分を「人見知り」だというきみちゃんは、最初はわたしとほとんど話さず、目線もあまり合わせませんでした。

産婦人科の待合室は婦人科と背中合わせで、その場にいるのは、ほとんどが女性。男性の姿は、数人の医師と、妊婦に付き添うパートナーを数人、たまに見かける程度でした。きみちゃんはのちのインタビューで「女性だけの科だから、視線が気になった」と話していました。

健診では主に、尿検査、血圧測定、エコー検査、医師の問診という流れで行われました。きみちゃんがふだん、男性用トイレを使用しているのを聞いていた病院は、尿検査では男性用トイレに案内していました。