3月15日に集中回答日を迎えた今年の春闘。大企業では歴史的な賃上げが相次いだ。今後は雇用の7割を占める中小企業にも賃上げが波及するのかが焦点だ。
大手は歴史的賃上げも中小企業を悩ませる価格転嫁問題
東京・目黒区にある機械部品の製造を手掛ける富士精器は、4月から17人いる従業員の賃上げを決めた。

富士精器 藤野雅之社長:
この4月昇給は3%から4%を考えています。自分がやったらやった分、技量が上がったら上がった分の給料で、もっと難しい5軸の機械ができるようになったらもっと上がっていくと。それによって自分たちの人生設計、いずれ結婚して子供を産んで家を買ってとか、そういうものが見えないとなかなか魅力的な会社になっていかない。
ベースアップ1%を含む3~4%の賃上げだ。人手不足の中、待遇を改善することで優秀な人材を確保する狙いだ。従業員は「毎年上げてくれるので安心して仕事に取り組むことができます」、「自分が頑張った分だけ会社の方で評価してくれて給料を上げてもらえるので、非常に頑張りがいがある」と話す。ただ不安材料もある。2022年は電気代が21年の2倍まで上がり、経営を圧迫する要因になっていた。
富士精器 藤野雅之社長:
人件費と同じ分ぐらいが電気代で消えているという状況ではあります。そこで賃上げをしようというところですから、非常に苦しい。だいぶ物価が上がっているので、多少の賃上げではなかなか追いつかないと思うのですが、内部留保を減らしてでも皆さんに還元していかなければいけないなと思っています。

中小企業が厳しい決断を迫られる中で迎えた3月15日の春闘の集中回答日。日立製作所は25年間で最高となる月7000円のベースアップを満額回答。また三菱重工業は49年ぶりの満額回答で月14,000円のベースアップを決定するなど、幅広い業界の多くの大企業が満額回答で歴史的な賃上げを決めた。中でも大幅な賃上げを発表したのが餃子の王将を運営する王将フードサービスだ。6月から正社員の給与を平均で月額22,000円、平均7%の賃上げを実施するとしている。番組の取材に対し王将側は「物価高騰の中、従業員の生活向上を図ることは当社にとって最も重要であるとともに必要な投資」とコメントしている。
大手の満額回答ラッシュの中、政府は経済界、労働界の代表らとの政労使会議を8年ぶりに開催した。

経団連 十倉雅和会長:
この賃上げが是非消費に結びつくように。将来若い世代が安心できるような環境醸成をぜひ政府民間一緒になってやっていこうということを呼びかけました。

連合 芳野友子会長:
今の段階ではかなり状況はいい方向に向かっているのですが、賃上げというのは今年で終わるものではありませんので、来年以降も継続した賃上げが必要だと。
会議では中小企業の価格転嫁がしやすい環境づくりを進めることで合意した。中小企業にとって価格転嫁が進まず賃上げの原資を捻出できないことが大きなハードルになっているのだ。
茨城県水戸市にある食品などの配送を手掛ける茨城乳配の吉川国之社長を悩ませているのは価格転嫁の問題だ。

茨城乳配 吉川国之社長:
燃料代、オイル代、タイヤ代、化石燃料に起因するものは全部上がっているので、実際油が上がったこともお客さんに100%転嫁できていません。
顧客である荷主も運賃の値上げに理解を示すようになってきたというが。
茨城乳配 吉川国之社長:
中小の物流業界ですと、利益率は2~5%確保できたら御の字という業界です。それを確保するためにどこの会社も切り詰めてやっています。さらにそこから今回人件費を上げるための原資をひねり出そうとすると、どこから出したらいいのかというのが正直なところで。
従業員280人分の賃上げの原資は年間3000万円に上ると見ているが、それでも実施しなければならない理由もある。
茨城乳配 吉川国之社長:
物流業界は2024年問題を控えていて、労働時間を短くしなければいけないという喫緊の課題があります。
物流業界では2024年4月からトラックドライバーの時間外労働などの規制が強化される。ドライバーの拘束時間は年間200時間ほど短くなるという。
茨城乳配 吉川国之社長:
時間が短くなると給料は減るわけです。残業時間が減るので。休みが増えても今の水準の給料を維持することは必要なので、賃上げはどうしても避けては通れないと考えています。トラックを動かそうとすると人1人必ず必要で労働集約型の業界です。人ありきとなるので、社員の生活水準を守るというのが優先で、どちらかと言うと会社の利益はあとという考え方をしていかざるを得ないだろうと。