福島県富岡町では、今年の春以降、特定復興再生拠点区域の避難指示が解除される予定です。
これによって、町の面積の9割以上で住むことができるようになります。
いま、この富岡町で花からお酒を作ろうと奮闘する男性がいます。
松井綾乃アナウンサー「富岡町に来ています。富岡町といえば、夜の森の桜並木。いまはまだ花は咲いていませんが、あと2か月ほどすると満開。楽しみですね。まさに花の町です」

富岡町のシンボル、夜の森の桜。春になると、全長およそ2.2キロメートルの桜並木が私たちを歓迎してくれます。

今年、町では、JR夜ノ森駅東側の復興拠点の避難指示解除を控えていて、町のおよそ9割で住むことができるようになります。
復興の歩みが進む富岡町で、待ち合わせたのが、渡邉優翔(ゆうと)さんです。
去年、富岡町で会社を立ち上げました。

東京農業大学で造園を学ぶ渡邉さんは、須賀川市で300年以上続く「大桑原つつじ園」の次期当主なんです。

渡邉さん「一番好きな花は?と聞かれるとやっぱりツツジと答える」
松井アナ「囲まれて育ったわけですもんね」
渡邉さん「22年間ずっと囲まれて育ってきた」
松井アナ「素敵!お花に囲まれて生活してみたい」
渡邉さん「僕にとってはそれが当たり前の景色というか」
花に囲まれて育ってきた渡邉さん。去年、富岡町で花にちなんだある挑戦を始めました。
渡邉さん「富岡では、花酵母という花から酵母を採取して、それをお酒にして、新たな地域資源を創り出すということでお酒造りをやっている」
日本酒などのお酒は、酵母が持つ「糖をアルコールと炭酸ガスに分解する働き」を利用して造られています。

その酵母のなかで、花から分離したものが「花酵母」と呼ばれていて、渡邉さんが通う東京農業大学の研究でお酒に転用できることが発見されました。

渡邉さんはいま、この花酵母を活用したお酒を開発中で、出来上がりにも違いが出るそうです。
渡邉さん「フルーティーな香り、すっきりな香り、柑橘系の香りなどというところに効能を出してくる酵母なので、日本酒などで使われている酵母よりは香りに特化した酵母」

一般的なお酒よりも、強い香りを醸し出すそうです。
花を鑑賞するだけではなく、五感で楽しんでもらいたい。そんな思いで町内に設置した事務所からは、芳醇なアイデアが浮かんできます。
渡邉さん「甘みもしっかりあり、酸味もしっかりあるという、恋を意味するような味になるのではないか」
松井アナ「初恋の甘酸っぱめ」
渡邉さん「それを目指している」
松井アナ「いいですね~」

なぜ、渡邉さんは、富岡町でお酒を造るのか。そのきっかけとなった場所がJR夜ノ森駅です。
松井アナ「このあたりにツツジが咲くんですよね」
渡邉さん「富岡はもともと町の花がツツジと制定されていて、夜ノ森駅はツツジで有名」
町の花のツツジ。震災前、夜ノ森駅には、およそ6000株のツツジが咲き誇っていました。

しかし、震災後、除染のため、根元を残して切り取られてしまいました。
渡邉さん「町民のみなさんも、ツツジを再生させることが本当の復興だという話もあり、ここを復興させなければということで、家業の力を借りて再生させようと」

自分に出来ることはないか…
渡邉さんは3年前、町の中学校に残っていたツツジを採取して、住民とともに町にツツジを増やす取り組みを始めました。
3月に完成予定の第一弾のお酒に使われるのは、大桑原つつじ園のツツジですが、その後は「富岡町で栽培された花も使っていきたい」と渡邉さんは考えています。
1月には、町でバラ園を営む生産者を訪れ、花酵母でお酒を造れないか相談しました。
渡邉さん「ジンとか使うときは使用したい」
夜の森ローズガーデン・山本智子さん「これはうっすら香りがあるんですよ。これはちょっと匂うかどうか」

渡邉さんの熱意に心を打たれ、町の先輩たちも渡邉さんの挑戦を後押ししています。
夜の森ローズガーデン・山本さん「若い方が起業すると周りの人もエネルギーをもらえる。町が活気づくのではないか」
将来的には、町のツツジや農産物を使ってお酒を造りたいという渡邉さん。
富岡町でのツツジの物語はまだ始まったばかりです。
渡邉さん「これから花の新たな価値やツツジの新たな価値を見出していって、より富岡町と家業のためにいろいろ発展できると思い、ワクワクしている」
渡邉さんの”華やかな”挑戦から目が離せません。