黒田東彦日銀総裁の後任として植田和男氏が国会に提示された。なぜ経済学者の植田氏が総裁候補に上がったのだろうか。その理由に迫る。
中銀コミュニティに入っていける人 雨宮副総裁、中曽元副総裁は固辞
2月14日、黒田日銀総裁の後任として国会に提示された経済学者の植田和男氏。最大の焦点はアベノミクスを支えた異次元の金融緩和がどうなるかだ。「日銀においてアベノミクスを継承するかどうかということについては、マーケットの状況等もしっかりと判断しながら、対話を重ねながら日銀として適切な行動、手法を判断していくことになる」。15日の国会で岸田文雄総理は、アベノミクス路線継承について日銀の判断と言葉を濁した。
植田氏はどんな考えの持ち主なのか。関心の高さから、2005年の著書にはネットで3万円を超える値が付けられている。過去の発言から読み解いてみる。
2022年7月の日本経済新聞への寄稿では「金利引き上げを急ぐことは、経済やインフレ率にマイナスの影響を及ぼし、中長期的に十分な幅の金利引き上げを実現するという目標の実現を阻害する」としていた。
植田氏は1998年から7年間日銀の審議委員を務めていた。ゼロ金利解除が決まった2000年8月の金融政策決定会合では反対票を投じている。ただ、長短金利操作=イールドカーブコントロールについては「難しいのは、長期金利コントロールは微調整に向かない仕組みだという点である。金利上限を小幅に引き上げれば、次の引き上げが予想されて、一段と大量の国債売りを招く可能性がある」と指摘する。
これまで日銀出身と財務省出身の人間がほとんどを占めてきた日銀総裁のポスト。日銀の異次元緩和を取材してきた元時事通信解説委員長で帝京大学教授の軽部謙介氏は「財務省出身者、旧大蔵省の出身者の方たちは事務次官が多い。政治との調整あるいは政治とのバトルを経て出世してきた方が多いのです。従って金融政策のトップとして本当に適格性があるのかという問いかけのないまま日銀総裁になっている」と話す。

一時は黒田総裁の右腕である雨宮日銀副総裁や中曽元副総裁の名が候補として挙げられていたが、「取材をしてみると、雨宮氏も中曽氏も固辞していた。特に雨宮氏は最有力候補だったのですが、まずきちっと物事を検証し何が必要なのかということを考えるときに、そもそも自分のやったことだということで、総裁ポストというのは私にはふさわしくないのではないかということをおっしゃっていた」(軽部謙介教授)。

植田氏が就任すれば戦後初の学者出身の日銀総裁となるが、固辞した雨宮氏も金融政策に精通し英語に堪能な総裁の必要性を周囲に語っていたようだ。「どこの中銀も学者が多い。やはりきちっと英語でコミュニケーションが取れて各国の中銀総裁コミュニティの中に入っていけるような人でないとダメではないかと。学者出身の方でいい人がいればそちらの方がいいのではないかというようなことをおっしゃっていたらしいのです。非常に日銀にも精通された方、しかも国際的にも名が知れた学者だということで白羽の矢が立ったということのようです」(軽部謙介教授)。