※小野寺紀帆キャスター
「見えてきました、ふかうら雪人参。雪の下で糖分を蓄えて鮮やかなオレンジに育っています、甘い良い香り!」

雪から掘り出されたばかりのニンジンからは甘い香りが

ふかうら雪人参は、雪の下で低温にさらされることによって熟成します。糖度は9度前後とスイカやサツマイモ並みの甘さとなるほか、グルタミン酸やβカロテンといった旨み成分も一般的な人参の1.5倍ほどになる深浦町のブランド野菜です。この素材だからこそ、シチューでも存在感が際立ち、おいしさを増すと言います。

雪の下で熟成した深浦雪にんじん

JR深浦駅そばの「食べ物屋セイリング」。1985年の創業時は喫茶店でしたが、地元食材を使った愛されるメニューを提供したいとの思いから、約20年前にレストランとして再出発しました。

「食べ物屋セイリング」 入口横には深浦雪にんじんビーフシチューの表示

※食べ物屋セイリング 山本進さん
「深浦が大好きなのでとにかく深浦をなんとかしようって感じで、ほとんど深浦の食材を使うようにしています」

地元・深浦への愛を語るセイリングの山本さん

看板メニュー「ふかうら雪人参ビーフシチュー」は店のオリジナルメニューです。ニンジンは食感を残すため大きめにカットし、ほかに使う具材は、主役を引き立てるため、タマネギと牛肉だけです。肉の表面をサッと焼いて肉汁を閉じ込めたあと、鍋に具材や自家製トマトペースト、ルーなどを加え1日かけてじっくり煮込むと、熟成ニンジン特有のあの旨味があふれ出します。

大きめにカットされたふかうら雪人参

※小野寺紀帆キャスター
「ニンジンの存在感たっぷりのビーフシチューです。いただきます。甘い。上品な味のルーの中から、ニンジンの甘味がじわっと広がって味わい深さが一気に増します」

甘く上品な味わいに小野寺キャスターもにっこり

このおいしさを全国に広めようと、店では2013年にニンジン型のパッケージに入れたレトルト商品の販売を始めました。独特の甘さのニンジンが主役のシチューは、瞬く間に人気を集め、年間7000食以上を販売するまでになり、町のふるさと納税の返礼品にも採用されるようになりました。こうして、町特産の野菜を使い愛されるメニューを提供しようという山本さんの挑戦は、新たなブランドとして順調に育ってきましたが、2022年思わぬ事態が発生します。

深浦雪にんじんビーフシチューのレトルト商品

8月、記録的な大雨が県内を襲いました。深浦町では降り始めからの総雨量が433.5ミリと、平年の8月の1か月分をゆうに超える雨が降り、雪人参が生育する艫作地区にも被害が出ました。

※舮作興農組合 新岡重光さん
「ダーッと雨が降って畑の中が川みたいになった」

畑に蒔いた種が13ヘクタールにわたり流されたほか、雨の影響がないと思われていた所でも、うまく育たなかったと言います。

※舮作興農組合 新岡重光さん
「流れなかった所のニンジンの芽が出てきて。そうするとお日様の露出で色が青くなる。そうすると商品価値が無くなるそんなニンジンが今年いっぱいあります」

赤丸で囲まれたところを見ると…

奇しくも、レトルト商品の人気もあいまって全国的に雪人参の引き合いが高まる中での被害。市場価格の上昇が山本さんの店を直撃します。

※セイリング 山本進さん
「3、4年前の倍。去年の3割増しくらいかな」

この難局に山本さんが出した答えは規格外品の更なる活用でした。山本さんは市場に流通しないものを商品として買い上げていますが、その量を増やすことで農家の支援、ひいては雪人参ブランド維持につながるとしています。

※セイリング山本進さん
「(農家への)応援はしたいですね。この雪人参を使ったビーフシチューを廃れさせないように、もっともっと出せるようにすれば、その分農家さんからも、もっともっとニンジンを仕入れることができるので。とにかく雪人参をいっぱい使えるようにがんばっています」

農家を応援するためにもがんばりたいと語る山本さん

地元の特産品で新たなブランドを確立したレストラン。看板メニューのシチューにはニンジンの甘さと地元愛が凝縮されています。

地元愛が凝縮されているビーフシチュー