裏切者企業のロシアとの取引“音声”
西側、とくにアメリカがウクライナの汚職体質を問題視するのは、ウクライナを通してロシアや中国が不正な手段で資金や情報までを得てしまうことを防ぐためである。金銭ならまだしも、供与した最新兵器の情報が敵対国に流れたなら大変なことになる。
元々、ウクライナは賄賂大国だったとされ、現にこんなこともあった。軍事関連会社ともいわれるエンジンの会社「モトール・シーチ」。その幹部が中国から賄賂を貰い、株を大量に手放そうとしていたことがあり、日本側の情報提供でウクライナの治安機関が株主総会当日乗り込み、力づくで阻止したという。

しかし今回、この会社を巡ってとんでもない事態が発覚した。現在は国有化された「モトール・シーチ」が秘かにロシアと取引していたのだ。それも去年の3月、戦時下となり敵国となったロシアが相手だ。その取引の音声データがあった。そこには耳を疑う会話が記録されていた。
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長
・・・「何台購入するか教えてくれ」
・・・「部品はそちら(モスクワ)に送ることができるが」
・・・「クロアチア経由がいいのかモンテネグロ経由がいいのか決めてくれ」
・・・「よさそうな場所があったよね」
ロシア・モスクワ企業の社長
・・・「クロアチア、カザフスタン、キルギスでもいい」
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長
・・・「総額を計算するのでどこ経由にしたいのか決めてくれ」

こうした取引の具体的な話に続いて、ボグスラエフ社長がウクライナを裏切る内容も記録されていた。
ロシア・モスクワ企業の社長
・・・「あなたはゼレンスキー側の味方だよね」
『モトール・シーチ』ボグスラエフ社長
・・・「いやいやいや、ゼレンスキー側は去っていく。ゼレンスキーを押し出して去っていく」
・・・「問題ないよ キーウでは多くの人が死んだし、彼らはおとなしくなったし」
・・・「プーチンが戦争を終わりにしたら、ナチは私たちを殺すぞ」
・・・「うちの敷地内でイスカンデルミサイルが着弾したが、私隊は特に怒っていない。状況を理解してるからね」

このやり取りには田中克氏も驚く。
ウクライナ財務大臣アドバイザー 田中克氏
「直接ロシアとやってるとは思っていなかった。中国経由と思ってたんで…。」
防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「ウクライナの汚職、不正はロシアのつけ入る隙になるんです。まぁこれは驚きましたけど…(中略)これ以外にもウクライナの政治家や高官にロシアが直接賄賂を渡して情報を得るとか、開戦直後ロシアに有利な形の取り計らいがあったという事件は伝えられていて、高官が解任されたことはあった。でもここ(汚職・不正体質)を切っていかないと西側が支援を続けていくことは難しいと思います。」
汚職大国ウクライナ ゼレンスキー大統領自身の問題は…
さすがに『モトール・シーチ』のボグスラエフ社長は去年10月逮捕されたが、汚職、不正が横行するウクライナでは氷山の一角に過ぎないという。ゼレンスキー大統領も1月31日「これですべての人事措置が終わったわけではない」と演説した。
2月1日に出された“汚職への厳しさ”を示すランキングでウクライナは世界116位だ。去年の侵攻直前プーチン氏は「ウクライナの汚職は通常の範囲を超えている」と批判している。このランキングでロシアはさらに悪い137位なので“どの口が…”という話ではあるがどちらも褒められた順位でないのは確かだ。
過去形でない汚職体質のウクライナの中、心配になるのはゼレンスキー大統領自身に問題はないのか、ということである。
ウクライナ財務大臣アドバイザー 田中克氏
「もともと汚職やオリガルヒとの裏の関係を撲滅しようとしがらみのないテレビタレントから大統領になった。しかしロシアの侵攻前は、オリガルヒと裏でつながっているんじゃないかという疑念はありました。支持率も10%まで落ち込んでいました。今の状況だとロシアに対し毅然とした態度で人気もあり政権維持としては大丈夫。汚職については…私の口からははっきり言えないが…全くないということはないと思う」
ウクライナが汚職体質からどう立ち直れるのか、そしてゼレンスキー氏自身の問題が明らかになるのか…今後の欧米支援にも影響し、戦況を左右する大きなファクターになりそうだ。
(BS-TBS 『報道1930』 2月1日放送より)