「武器を捨ててください」サッカーW杯が動かした“国民の心”

世界で最も競技人口が多いスポーツとされるサッカー。その頂点を決めるワールドカップでは、これまで、「サッカーの力」を感じさせる様々なドラマが演じられてきました。

その象徴ともいえるのが、1986年のワールドカップ・メキシコ大会。アルゼンチン代表のマラドーナ選手は、イングランドを相手に「神の手」「5人抜き」ゴールと呼ばれた“奇跡”を演じます。

さらにアルゼンチンは勝ち進み、優勝。国民は熱狂します。

その背景にあったのがこの4年前に起きた、南大西洋の島の領有権を巡り、アルゼンチンとイギリスが戦ったフォークランド紛争。イギリスの圧倒的軍事力を前にアルゼンチンは敗北。多くの若者の命が奪われます。

マラドーナ氏は自伝で、のちにこう語りました。

「マラドーナ自伝」より
「アルゼンチンの青年たちを、奴らイギリス人たちが、小鳥でも殺すような感じで殺していた。だから、あれは復讐だったんだ」

歴史的に欧米による搾取や弾圧にさいなまれてきた南米。加えて、敗戦による屈辱に、国民はうちひしがれていました。

それを武力ではなく、スポーツの世界での勝利によって晴らしたマラドーナ選手は、国民を勇気づけ、奮い立たせたのです。

また2005年、当時、激しい内戦が続いていた西アフリカのコートジボワールは、ワールドカップの初出場を決めます。

国中が歓喜に沸く中、キャプテン・ドログバ選手は国民に呼びかけます。

コートジボワール代表 ディディエ・ドログバ選手
「国民の皆さん、ワールドカップ出場という目標の下、様々な民族が一緒にプレーできる事が証明されました。喜びのため人々は団結できます。今ここでひざまずいてお願いをします。我々の豊かな国、内戦を続けていてはいけません。お願いです、武器を捨てて下さい」

メッセージは国民の心を揺り動かし、2年後の停戦合意につながりました。

さらに、2010年の南アフリカ大会。そこに至る、黒人への「アパルトヘイト」=人種差別政策撤廃の歩みにも、サッカーは影響を及ぼしたのです。