スーパーの駐車場でよく見る焼き鳥などの移動販売。主に祭りの露天商が平日の収入を確保する手段だったが、このところは脱サラからの新規参入組も存在感を示しているという。ただ、出店交渉をして実際に店を出し、さらに“場所代”や売上ベースのマージンを払って利益を出すのは簡単なことではない。ところが、新型コロナで収入が“ゼロ”になったのを契機に参入し、瞬く間に人気店にのし上がった店が福岡県にある。出店の実態を聞くと、場所代がかからない店側から「逆オファー」だという―。
◆「強豪野球部」出身の2人がタッグ

真っ赤な炎に包まれて焼かれるおいしそうな肉。

「ハラミは油が落ちにくいので鶏油と油を上手く使わないとだめです」と慣れた手つきで鶏肉を焼きながら説明してくれたのは、この移動販売店で働く米安王貴さん(24)だ。1年ほど前は新型コロナの影響で、先の見えない状況だった。
米安さん「会社員を辞めて、焼き鳥店で働くことになって1か月間働いたが、コロナ禍でまん延防止措置がとられて店が閉まることになったんです」

収入がゼロになった米安さんが頼ったのは、大学の先輩。当時、食材の卸しの仕事をしていた佐藤力也さん(26)だった。佐藤さんは東福岡高校野球部のエースで、投打2刀流でドラフト候補にもなった。

米安さんも、大分の強豪校「明豊高校」でキャプテンを務め、甲子園にも出場した経験がある。2人はいずれも福岡大学に進学し、野球部の先輩・後輩の間柄だった。
◆店の味を家庭でも味わってほしい
2人が相談して始めたのが、鶏の炭火焼きの移動販売だった。
米安さん「何も言わずご飯に連れて行ってくれました。自分の思いを全部伝えたところ、その気なら一緒にやろう!と」
米安さんの大学の先輩・佐藤さん「コロナ禍でなかなかお店に行けない、お店のものを食べられなかったので同じ思いの方もいると思いました。お店が出すものを家庭に持ち帰って食べられる商品を自分たちが出せたらなと思って。最初は売れる場所が2か所くらいしかありませんでした」
2人にとって移動販売店は初めての経験。しかし、佐藤さんは実家の家業で鍛えた“料理”の腕には自信があった。