■愛媛・道後温泉で起きた奇跡の出会い
「日本三古湯」の1つに数えられる、愛媛・道後温泉。その一角に佇む旅館「大和屋別荘」は、文人たちの作品を所蔵していて、近代文学の息遣いを今に伝える場所です。宿泊客が行き交う1階のエレベーターホール。そこに何気なく飾られていた7枚の絵はがきが、日本文学史に新たな1ページを書き加える発見の舞台となりました。
事の発端は、2020年2月にさかのぼります。早稲田大学の中島国彦名誉教授と秀明大学の長島裕子客員教授の夫妻は、長きにわたり漱石の残した書簡や直筆資料を研究してきた第一人者です。道後温泉への旅行を計画していた長島客員教授が、「大和屋別荘」のホームページを閲覧していた時のこと。
画面に、館内の所蔵品として紹介されていた画像。その画風に、長島客員教授の目は釘付けになりました。「これはもしや、漱石の直筆ではないか」。
中島名誉教授らが大和屋別荘に連絡を取り、画像の提供を受けて詳細な調査と解析を進めた結果、これらは1905年(明治38年)から翌年にかけて描かれた、夏目漱石の直筆の絵はがきであることが確認されたのです。
これまでに見つかっている漱石直筆の絵はがきは約60通にのぼりますが、絵だけが描かれ、文字による通信文がないものは、わずか2、3通しか存在が知られていませんでした。複数枚が一度に、しかも全集にも未収録の新しい資料として確認されるのは、まさに奇跡と呼ぶべき出来事でした。
(早稲田大学 中島 国彦名誉教授)
「全く新しいものが突然発見されたというよりは、昔からそこにあったものが、実は誰も知らなかった新資料だったということに、深い驚きを覚えました」
驚くべきは、この歴史的資料が置かれていた環境です。大和屋別荘には約700点もの文人の作品が所蔵されており、これらの絵はがきも、30年以上前に同館の創業者が購入し、館内で宿泊客の目を楽しませてきた作品群の一部として大切に保管・展示されてきたといいます。















