私たちの生活や経済を根底から支える物流業界。働き方改革が課題となる中、福島県いわき市に70年以上続く一社の物流会社が、時代を先取りした独自のシステムで成長を続けています。ヤマト運輸の物流拠点から始まり、現在では総合物流企業として地域を支える「喜美運送」です。

同社を率いる2代目の伊藤啓樹社長は、経営理念についてこう語ります。「従業員の幸福増進、そして得意先の利益向上、そして社会貢献。事業継続においては『三方良し』を意識しております」。その理念は、25年も前から続く画期的な輸送システムに色濃く反映されています。

2024年問題の解決策を25年前に確立

物流業界では近年、ドライバーの時間外労働に上限が設けられる「2024年問題」への対応が急務となっています。しかし喜美運送は、規制が始まるおよそ25年も前から、この課題に対する一つの答えを実践してきました。それが「共同配送」システムです。

一般的な運送スタイルは、1社の顧客の荷物を1台のトラックで運ぶ「チャーター便」です。一方、喜美運送の共同配送は、荷物の容積や重量に応じて、複数の企業の荷物を1台のトラックに積み合わせて配送します。

このシステムにより、トラックの稼働台数を抑えながらも多くの発注を受けることが可能になりました。結果として、従業員の負担を減らしながら売上は飛躍的にアップ。顧客にとっては輸送コストの削減につながり、社会にとってはトラックの稼働数減少によるCO2排出量の削減にも貢献しています。まさに「三方良し」を体現した取り組みです。

この珍しいシステムを支えているのが、運送会社には珍しく配置されている「営業部」の存在です。営業担当者が荷主と交渉し、効率的な配車を組むことで、複雑な共同配送を実現しています。

この画期的なアイデアは、先代の菅野義晴会長が、ヤマト運輸の「宅急便」の生みの親とされる人物との親交の中から着想を得たものだと伊藤社長は語ります。「大きなロットで企業同士の積み合わせ、これはできるんじゃないか」という発想が、今日の喜美運送の礎を築きました。

「依頼を断らない」先代の教えが築いた信頼

先代の菅野会長が社員に口を酸っぱくして伝えていたことがありました。それは「お客さんの依頼を決して断らないこと」です。

「難しいご依頼の内容であったとしても、どうしたら輸送できるのか自然に考えるようになりました」と伊藤社長は振り返ります。この教えは社員一人ひとりに浸透し、どんな依頼にも真摯に対応し続ける姿勢が、顧客からの絶大な信頼につながりました。

あるドライバーは、「荷主さん側が状況を分かってくれて、運賃交渉とかもすごくスムーズに進めてくれたと聞いたことがある」と語ります。信頼関係があるからこそ、困難な状況でも協力し合えるのです。その分、ドライバーたちも「預かってる荷物、何もないように納品先に届けるっていうのは絶対条件」という強い責任感を持って業務に臨んでいます。

2代目の「自分らしさ」とSDGsへの挑戦

伊藤社長が事業を受け継いだのは5年前。当初は偉大な先代と比べて息が詰まるような思いだったと言います。しかしある時、「偉大な先代のようにできなくてもいいんじゃないか」と思えたことで、肩の荷が下りました。

「自分らしく会社を大事に、自分らしく従業員を大事に、そして自分らしくお客さんに喜んでいただければいい」そう思えるようになってから、伊藤社長は新たな取り組みに力を入れ始めました。それがSDGsです。

毎月、推進メンバーと共に勉強会を開き、事業と環境の両立を模索する中で、新たな利益を生み出す仕組みを構築しました。その一つが、荷崩れ防止に使う「ストレッチフィルム」のリサイクル事業です。

これまで廃棄していた使用済みフィルムを圧縮し、再生業者に売却。これが新たな収益源となっただけでなく、輸送時のCO2削減にもつながっています。さらにこの事業は、トラックの運転などが困難になった高齢の従業員に新たな働く場を提供するなど、雇用の継続にも貢献しています。

従業員の幸せを第一に、AIと共に未来へ

「一番に考えるのは従業員の幸せ。そのために何をするかっていうところなので。」伊藤社長のこの思いは、社員にもしっかりと伝わっています。ある従業員は「労務管理だったり運行管理、きちっとやってるので、働きやすい」「頑張ってくる人にはちゃんと、見ててくれてると思う」と語り、会社への信頼を口にします。

信頼する従業員と共に、喜美運送は未来を見据えています。今後は従業員をさらに増やしていくと共に、独自の輸送システムをAIの活用で進化させる「AI輸送システム」の完成を目指し、さらなる効率化を追求していく計画です。

顧客、世間、そして従業員を大切にする「三方良し」の精神。その思いが一人ひとりの意識を高め、サービスの向上につながる。喜美運送が長年地域で選ばれ続ける理由は、この素晴らしい循環の中にあるのかもしれません。

『ステップ』 
福島県内にて月~金曜日 夕方6時15分~放送中
(2026年5月21日放送回より)