「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家男性の死亡をめぐり、殺人などの罪に問われた元妻(30)の裁判。
1審の無罪判決を支持した2審・大阪高裁の判決を不服として、検察側が4月6日、最高裁に上告しました。
■検察は「殺人事件で、犯人は須藤被告」と主張
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家・野崎幸助さん(当時77)は、2018年5月に和歌山県田辺市の自宅で死亡。死因は急性覚醒剤中毒でした。
野崎さんの死をめぐり、元妻の須藤早貴被告(30)が、致死量の覚醒剤を何らかの方法で経口摂取させたとして逮捕・起訴されました。
1審で検察側は、主に以下の点を指摘し、“殺人事件で、犯人は須藤被告以外にありえない”と訴えました。
▽野崎さんの死亡前に、須藤被告が覚醒剤の密売人と接触し、致死量を超える覚醒剤を注文。実際に覚醒剤のようなものを受け取った点
▽「完全犯罪」「老人死亡」「覚醒剤過剰摂取」「覚醒剤死亡」など、薬物や犯罪、遺産相続をめぐる多くの検索履歴が確認された点
▽死亡当日に野崎さんが覚醒剤を摂取した可能性がある時間帯(約3時間)に、須藤被告が少なくとも8回、1階から野崎さんがいる2階に上がった点
一方で須藤被告は、「私は社長(野崎さん)を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません」として、一貫して無罪を主張しました。
■“疑わしきは罰せず”をつらぬいた1審判決
2024年12月の判決で和歌山地方裁判所(福島恵子裁判長)は、まず須藤被告と覚醒剤の関連について、被告が密売人に覚醒剤を注文したことは認定し、“野崎さんから購入を頼まれた”とする被告の説明は信用できないとしました。
一方で、密売人から受け取ったものが、本物の覚醒剤ではなく氷砂糖だった可能性があると指摘。
また、一連の検索履歴についても「野崎さん殺害を計画していなければあり得ないようなものとはいえない」としました。
野崎さんが死亡した当日に、須藤被告が何度も1階と2階を往復した点も、「2階に被告の私物が置いてあったことも事実で、野崎さんの死亡とは無関係な理由で行き来していた可能性も否定できない」などと指摘。
「須藤被告が覚醒剤を摂取させて殺害したのではないかと疑わせる事情はあるが、検索履歴などとあわせて考慮しても、殺害したと推認するに足りない」と断じました。
■野崎氏の「覚醒剤やってるで」の電話「冗談と決めつけられない」
そのうえで、野崎さんと覚醒剤との関わりについて「常用していたとは考えられないが、人脈も行動範囲も広く、経済的な余裕も十分あったため、他者に依頼して覚醒剤を入手することは可能だった」と指摘。
さらに、野崎さんと長年交際関係にあった女性の、“死亡の約3週間前までに野崎さんが「覚醒剤やってるで、へへへ」と電話してきた”という旨の証言について、「覚醒剤摂取で死亡していることからすれば、野崎さんの発言を一概に冗談と決めつけることはできない」と判断。
「野崎さんが自殺以外の目的で覚醒剤を使用し、誤って過剰摂取した可能性がないとは言い切れない」としました。
そして結論として、須藤被告に無罪を言い渡しました。
■「状況証拠が示す事実が複雑に絡み合う事件だが、1審判決はそれらの事実の推認力を慎重に吟味」大阪高裁も1審判決を支持
1審判決を不服として、検察側は控訴。
しかし大阪高等裁判所(村越一浩裁判長)は3月23日の判決で、「野崎さんに不審感や違和感を持たれることなく致死量を超える覚醒剤を、覚醒剤と知られずに摂取させることは、不可能ではないが、容易にやり遂げることができるものではない」と指摘。
被告の検索履歴についても、「覚醒剤で死亡させることを考えた行動とみることもできるが、少なくとも明確な殺害計画を立てていたとまでは認定できない」としました。
そのうえで「状況証拠が示す事実が複雑に絡み合う事件だが、1審判決は、それらの事実が持つ推認力を慎重に吟味し、被告が犯人であることについて『常識に照らして間違いない』といえるまでの心証には達しないとして、無罪を言い渡したと認められる」として、1審判決を支持。検察側の控訴を退けました。
■検察側が最高裁に上告
この大阪高裁判決を不服として、大阪高等検察庁は4月6日(月)、最高裁判所に上告しました。
大阪高検の畑中良彦次席検事は「上告審で適正な判決を求めるため、本日、上告の申立をした」とコメントしています。
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