カエルも出てくる季節 すごもりむしとをひらく
(東洋産業 大野竜徳さん)
「ところで、啓蟄や『すごもりむしとをひらく』と聞いて、越冬している虫がもこもこ出てくるイメージはピンときませんね。
ここでの『むし』は古代中国の虫へんの漢字をイメージしてください。
昆虫はいわゆる虫ですが、たとえば哺乳類の蝙蝠(こうもり)、爬虫類の蛇(へび)、両生類の蛙(かえる)、甲殻類の蝦(えび)、軟体動物の蛸(たこ)や蛤(はまぐり)、蜆(しじみ)など、今とは異なる小型の動物を広く含む当時の分類概念で、昔の人は多くの小動物をすべて『ムシ』として認識していたそうです。
身の回りで見ると、そろそろヘビやカエル、そのほかのいろいろな生き物が土から出て動き出す時期だということを昔の人は感じていたのでしょうね。
この観察眼は鋭く、いわゆる現代に生きる私たちがみている虫である昆虫もこの時期くらいから目にすることが増えてきます。
多くの昆虫の活動を科学的に考えると、厳しい冬が過ぎてこれから活動を再開するきっかけは、主に三つ、『気温の上昇』『日長の伸び』『地温の上昇』です」
【気温】
「まずは気温という肌感覚。多くの昆虫はいわゆる変温動物です。多くの昆虫が活発に活動できるようになるのはまだまだ先ですが、春になって活動をはじめる平均気温の目安はおおよそ 10℃前後くらいだと考えてください。
3月上旬、日本の多くの地域で平均気温がこの境界に差しかかります。
まだまだ寒暖差は大きいものの、虫がそろそろ活動できる時間が増え始める時期です」
【日長】
「次に日長というスイッチ。3月になると、朝日が昇るのが早くなり、夕方遅くまで日が沈まなくなって明るい時間、つまり日長ののびが急激になる季節です。
昼と夜の時間が同じになる春分(2026年は3月20日)に向けて、昼の長さが一気にのびていきます。
昆虫の多くは季節の変わり目を日長変化で感じ取ります。平均気温は毎年変化しますが、日長は変わらない。
この仕組みを利用して昆虫は活動や休眠を一斉に行うようにし、これのおかげで餌に困ることなく、パートナーと同じ時期に出てこられるように調整しています。
日長の変化を感じ取って体内でホルモンが調整され、ちょうどこのくらいの時期に休眠打破されて覚醒へと切り替わるものが増えます。温度がブレても、日長は裏切らない。自然界の正確なカレンダーです」
【地温】
「最後に地温という目覚まし時計。
『すごもりむしとをひらく』という表現が秀逸なのは、虫たちが越冬する場所が地中や落ち葉の下だからですね。地温は気温よりも上昇が遅い。
2月中旬まではここ岡山県南部でも雪がちらつき、朝は日陰で氷が張っている日もありましたが、だんだんと夜間の冷えはやわらぎ、暖かいと感じる日も増えてきて、3月になると「寒の戻り」といわれるように寒さは去って時々戻ってくる程度になってきます。
だからこそ、3月上旬は地面の中でそろそろ春が始まるタイミングでもあるのです。虫は空気ではなく、土の温度で目を覚ますことも多いのです」














