かつて北前船の寄港地として栄えた奥能登の町でゲストハウスを開業した男性がいます。
今も震災の傷跡が残る町で目指す復興のカタチは、「人生のレールにない出会いの場」の提供です。

杉野智行さん「夕焼けがこの黒瓦を照らしているというのが黒島の方々が皆、口をそろえて一番好きな景色だという。黒島の門前の奥能登の地域の暮らしを守っていけるかという事に向き合っていけたら良いな」

輪島市門前町黒島地区でゲストハウスを営む杉野智行さん。
津幡町出身で、県の職員として働いていた杉野さんは、趣味の釣りで能登に通ううちにその自然に魅せられ、5年前に移住しました。
黒島地区は、江戸時代に北前船の寄港地として栄え、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。

杉野さん「板が横に張ってある、これを『下見板張り』という。板が少しずつ重ねて張ってある。雑音というか雑念がすごく少ないモノトーンの集落、気持ちが整う感じ、ここを歩くと。海と山にサンドイッチされているところに、こういうモノトーンの綺麗な街並みが軒を連ねているのはかっこいい」

杉野さんが2024年8月にオープンした「ゲストハウス黒島」は、町の中心部から歩いて5分のところにあります。

部屋はドミトリーと個室の2つのタイプがあり、最大20人を受け入れることができます。

自慢は、部屋に入ってすぐにある大きなまきストーブ。

外浦の海風が厳しいこの季節はストーブの火を見た客が安堵の声を漏らすと話します。

杉野さん「火の回りって人が自然と集まると思う。炎を見ながらそこに人が集まると言葉が途切れた瞬間もきまずくならずに、心地よい時間が流れる。炎を挟んで会話する」
営業を続けながらまだまだ工事が必要なゲストハウス。

杉野さん「8人泊まるところがあるので、8つのキャリーケースがこっち側に入ると嬉しい。なおかつここに服をかけられると理想的」
大工「そういう形で材料を用意します」
杉野さん「ありがとうございます」

杉野「復興の観点でも早くオープンさせたいという気持ちがあって、まだまだできていない所があったので、少しずつ営業しながら良くしていっている」
もともと杉野さんは、町の中心部の古民家でゲストハウスを開く予定でしたがその建物は能登半島地震で全壊となりました。

杉野さん「地震で建物が全壊した時も諦めるか否かという選択は本当に不思議なんですけど一度も頭によぎったことがない。どうやったらこの状態から挽回できるかという初めからそういう気持ちだった」
当時、黒島町の復旧活動の中心になって進めていた杉野さんは、工事関係者やボランティアの滞在拠点を一日でも早く作るため場所を変えてのオープンを決意したと話します。
杉野さん「(本当は元の場所でやりたかったという思いはある?)それはあります。結果的に今の場所もすごく良い場所で海が見下ろせたりとか、今の場所の良さもあるのでどちらがどうだってことはないが、ただここは黒島の中心部で、地域の玄関口、人生のレール上にはない出会いを生むのに最も良い場所だった」

黒島で、新たな出会いを生みたい。
杉野さんとっておきのスペースが、2月21日オープン予定の「ゲストハウス黒島BAR」です。

内装は、板を少しずつ重ねた黒島の家屋に伝わる「下見板張り」。
杉野さん「建物の中に居ながら黒島らしさを背景に語らうことができればという思いで設計士と相談しながら作った」

オープン準備の手伝いに来ていた富井優花さんは東京の大学に通う3年生です。
富井さんは、大学の先輩がゲストハウス黒島で住み込みのアルバイトをしていたのをきっかけに黒島に通うようになりました。
富井さん「余ったおかずを物々交換で回したり、海と山の恵みを存分に味わえる場所だと思う。そういう豊かさが素敵だと思って黒島に取りつかれた。杉野さんの言葉を借りると、人生のレール上にこの場所が無ければ交わらなかった人たちがこのゲストハウス黒島を通じて交わっていける、ちょっとずつ積み重ねられるような場所にして行けたらいいなと思う」

この日は、関西から初めて能登を訪れている大学生との出会いがありました。

富井さん「2時間前に初めて会った」
杉野さん「もはや姉妹みたいだね」
杉野さん「ここに来てすぐだけど、黒島の町はどうだった?」
森崎さん「歩いてて、作業中のおっちゃんが目が合って会釈したら「こんにちは」と挨拶してくれた。優しいなと思った」

オープンから1年半。
地元の人や宿泊客が交流するイベントを企画し、着々と理想に近づいているゲストハウス黒島。

この春には地元出身のスタッフも予定で、杉野さんも「活動の幅が広がる」と期待を膨らませます。

杉野さん「めちゃめちゃ豊かで守るべき価値がある暮らしが地震によって寸断されている状態。それを外から眺めるのではなく、取り戻そうとして活動している僕たちと、同じ側に立ってこっち側の同じ目線から、どうやって黒島の未来につなげるのかということを一緒に考えてくれるような仲間が増えてくれる、そんなきっかけの場所になったらいいな」

ゲストハウス黒島が灯す光にきょうも人々が集まります。














