相手のミサイル発射拠点などを攻撃する「反撃能力」。政府は来年度予算案の防衛費にアメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入費用として2100億円あまりを計上する方針を固めましたが、本当に抑止力となるのでしょうか。元外務審議官で日朝首脳会談の立役者が、現在欠けている議論について指摘しました。
■「反撃能力」保有で抑止力高まる?「トマホーク」導入へ

これは2018年にアメリカ軍が発射したトマホークの映像。標的はシリアにある化学兵器関連施設だと説明しました。

トマホークは射程1200キロを超え、GPSを使って目標をピンポイントで攻撃できる巡航ミサイルです。
政府は12月17日、安保関連の3文書を閣議決定する予定で、文書の中にはトマホークの導入が明記されています。想定されているのが反撃能力での活用。

これは相手のミサイル発射拠点など、相手国を直接攻撃できるようにするもので、歴代の政権は専守防衛の観点から保有を認めてきませんでした。

防衛政策の大転換ですが、具体的な攻撃対象や導入する装備などは国会で明らかになりませんでした。

岸田総理
「具体的にどのような装備を日本として備えるのか、あらゆる選択肢を排除せず、この議論を行っているわけです」

社民党 福島みずほ党首
「総理は、あらゆる選択肢を排除せずといって国会で説明しません、閉会中に閣議決定だけでやるとしたら、国会の議論がないじゃないですか、国会軽視ですよ」
安全保障を専門とする小泉氏は反撃能力の保有に賛成の立場ですが、政府の現状の説明では抑止力が高まるか判断できないと話します。

東京大学先端科学技術研究センター 小泉悠専任講師
「敵のミサイル基地とか、島しょ防衛用だとか、いろんな説明があるわけですけども、多分それに収まらない多様な目標を叩くってことを考えていると思う。外国の飛行場かもしれないし、司令部かもしれないし、どういう目標をターゲットにするのかってことがわかってこないと、なかなか抑止力が高まるかどうか、はっきり言えない」
また、小泉氏は国民の理解が深まらないまま反撃能力を保有しても、うまく機能しないとの懸念を持っています。

小泉悠 専任講師
「ただ兵器だけ持ってしまっても、あるいは基地だけ作ってしまっても、果たして日本が本当に危機的な事態になったときに対処できるか、そこに非常に不安がある」

政府は来年度予算案の防衛費について、過去最大の約6兆8000億円とする方針を固めました。トマホークの購入費用として2100億円余りを計上します。
防衛ジャーナリストの半田氏は、抑止力についてこう指摘します。
防衛ジャーナリスト 半田滋氏
「中国の場合は弾道ミサイルと巡航ミサイルを合わせて2200発というたくさんのミサイルを持ってるわけです。日本がトマホークを持ったとしても、それは相手の能力を上回るだけにはならないわけですから、抑止が効くかというと、そこは疑問になると思います」
また、アメリカから購入する場合、割高で買うことになるといいます。
半田滋 氏
「開発経費ってのは元を取ってるとは思いますけれど、基本的にFMS(対外有償軍事援助)で買うときには、開発経費を割り掛けして、価格にのってくる。アメリカ軍が買う金額と比べて2倍から3倍ぐらいの価格に高くなる」