■安保政策の大転換 反撃能力は抑止力に?
小川彩佳キャスター:
「反撃能力の保有が明記された安保3文書が17日にも閣議決定されるという節目を迎えているわけですが、この反撃能力を持つことは政府によると抑止力に繋がるということです。田中さん、これについてはどうお考えですか?」

元外務審議官 田中均氏:
「私は2つ大きな問題があると思います。相手ミサイルが発射されようというときに相手の基地を叩くっていう構想自体ずっとあったんです。『座して死はまたない』という言葉で何回も国会で答弁されて、違憲にはならないんだという解釈がされてきた。ところが実際問題として、相手が打とうとした瞬間に相手の基地を叩くというのは極めて難しい。間違うと先制攻撃になってしまう。相手の攻撃がある前に日本が攻撃をすると、戦争の引き金になってしまう。これ自体、専守防衛に真っ向から反するようになってしまう。これが問題点の1つです」

田中均氏:
「それから問題点のもう1つは、これが抑止力に繋がるか否かっていうことです。政府の中でどこの国がターゲットであるということは明示してないと思いますが、常識的に考えてそれは北朝鮮、中国だと思います。私自身、北朝鮮とずいぶん長い間交渉してきて思うんですが、北朝鮮は日本が反撃能力を持ったからといって、日本を攻撃しないという因果関係で動くという国ではない。むしろ日本が反撃能力を持つんであれば、それを上回る能力を持とうというふうに動くんです。それから中国について見れば、圧倒的に大きな物量を持っている。だからこれも抑止力に足りえない」

田中均氏:
「それから、この話というのは、戦争が始まる前に日本が先んじて攻撃するわけじゃない。いわゆる安全保障条約5条事態、日本が攻撃された際に、アメリカと日本が共同で戦うということなんです。そうすると、これまでのように縦と矛、日本が盾の役割を果たし、アメリカは矛の役割で十分いいはずなんです。日本が新たに反撃能力を持つということが、私は抑止力に繋がるというふうには到底思えない。だから、そういう議論がきちんとされるべきだと思う」
小川キャスター:
「反撃能力を保有することが、逆にリスクを高めることがあるのではないかという懸念が残る中ですけれども、また気になるのがこの大きな節目を迎えているにもかかわらず、外交の議論というのがなかなかこちらに伝わってこないということですよね」

田中均氏:
「一番最初にみんな考えなきゃいけないのは、安全保障関係をよくするということ。今の防衛費拡大の議論では安全保障環境が悪くなってしまう。北朝鮮、中国、ロシアという中で、日本も防衛能力を拡充しようというのはわかる。だけど、当然同時並行的にそれじゃ安全保障関係を良くするために外交が稼働しなきゃいけないという議論になるはずなんです。
今まで日本は、周辺地域との関係では、福田ドクトリンからずっとだが、日本という経済的にものすごく大きな国が軍事大国にならないということで、みんなを安心させてきた。
今何がこれから起こるかというと、世界で3番目の経済大国が、3番目に軍事能力を持とうとしている。軍事大国でないというのが詭弁に映ってしまう。だから私は、今、以前にも増して、周辺地域との関係で、安全保障環境を安定させる外交をやらなければいけないと思う。私はやっぱりそれなりにきちんと発言してもらいたい。外交のビジョンをきちんと語るようにしないと、単に軍事能力を高めるというように映ってしまう」
小川キャスター:
「有事が起きた際にどうするのかということだけでなく、有事が起きないようにどうしていくのかということを、ビジョンとして合わせて打ち出していくということですね」