“ただの挿入曲”にしないための現場連携
本作のミュージカルシーンは、音楽制作だけで完結するものではない。現場との“相互作用”によって生まれた仕掛けが、数多く存在した。
第10話の「寛容になりましょう!」のレコーディングには、総勢14人が参加。出演者たちが撮影の合間を縫ってスタジオに集まり、まさに“総力戦”で収録が進められた。
歌手としても活動をする山本耕史さん(栗田一也役)のパートでは、初期段階から現場と音楽の連動が起きていた。宮藤官九郎さんの歌詞を読み、MAYUKOさんは「他のキャラクターとは譜割り(メロディの音符1つ1つに歌詞のどの文字を当てはめるかを考える作業)が違うだろう」と直感。さらに「エレキギターのフレーズが似合うはず」と考え、デモ(制作途中の仮の音源)の段階で大胆なギターソロを入れ込んでいたという。
「山本さんがデモを聞いて、『自分が歌いながら弾けるギターソロを考えてきます』と連絡をくださったんです。後日、実際に考えてくださったギターソロと、手元が映った動画と一緒に“これでよろしく頼みます”と送られてきて…。『山本さん、本気だ!』と思いましたね。いただいたものを元に、ギタリストに依頼して仕上げました」。
こうした現場とのキャッチボールによって、ミュージカルパートは“単なる挿入曲”にとどまらず、ドラマのテンションや物語性を押し上げる存在になっていった。
「寛容になりましょう!」には、主人公の娘・純子(河合優実)の友人役の若いキャストたちや、向坂キヨシ役の坂元愛登さんなど、新しく参加したメンバーもレコーディングに加わった。
「若い出演者の方たちが“毎回こんなレコーディングをしていたんだ、いいな〜”って言ってくれて。『最後に来られてよかったです』と喜んでもらえて、すごくうれしかったです」。
レコーディングは、初めてブースに入る出演者にとっては緊張の場でもある。その空気を和らげることを、MAYUKOさんは常に大切にしてきた。
「ヘッドホンから自分の声が返ってくるのが初めてで戸惑う人もいますし、緊張で練習通りに歌えないこともあると思うんです。でも“必ずいいものを録って、笑顔で帰ってもらう”。それが私のモットーなんです。楽しかったと思ってもらいたい。そこはいつも大事にしていました」。
音楽と現場が響き合うことで、作品の世界はより豊かに立ち上がっていく。本作のミュージカルシーンが視聴者に強い印象を残した理由は、こうした見えない努力と連携に支えられていた。














