多くの民族が暮らす台湾では、自分の民族の言葉、「母語」を学校で学ぶことが義務付けられています。背景には、自分たちの言葉を失ってきた台湾の複雑な歴史がありました。
たったひとりの生徒のために…民主化以降始まった「母語教育」とは
台北市内にある小学校。行われているのは、少数民族タロコ族の言葉、タロコ語の授業です。
タロコ族の生徒(11歳)
「以前はタロコ語が話せなかったけれど今では話せるようになりました」
「自分の文化を理解したいし、民族に誇りを持っています」
勉強を始めてから家族との会話がスムーズになったうえ、何より自分のルーツを知ることが楽しい、といいます。
台湾の共通語は中国語です。しかし、古くから台湾に住む中華系の人々が使う「閩南語」や「客家語」、そして16ある先住民族にそれぞれの言葉(母語)が存在します。
台湾では1994年以降「母語教育」が導入され、今では小学校から高校まで週一回、自分の母語を学ぶことが義務付けられています。最近ではインドネシアやフィリピンなどからの移民が増加していることから、移民の子どもたちが自分の母語の授業を週一回受けることもできます。
タロコ語の授業を受ける生徒はたった一人。しかしどんなに対象生徒が少なくても、生徒が希望する言語の先生を探して授業を受けさせる義務が学校にはあります。費用は地方自治体がすべて負担。手間暇とお金がかかることですが、なぜこのような取り組みが必要なのでしょうか。
タロコ語の先生 張秀英さん
「私たちの言葉は日本統治時代に禁止されていました。国民党が来たあとは中国語を話さなくてはならず、私たちの言葉は絶滅の危機にありました。今、最も大切なのは言葉の復興なのです」
張先生が教えているのは言葉だけではありません。例えば先生が着ている服には、タロコ族特有の模様が縫い込んであります。
タロコ語の先生 張秀英さん
「これは私たちタロコ族の伝統衣装です。この模様は祖先の目を意味しており、『私たちが行うすべてのことは祖先に見守られている』という意味が込められています」
文化や習慣、民族の歴史を教えていくのもまた、授業の大切な役割です。














