社内異動――会社員なら誰もが一度は経験し、期待やチャンスと感じる一方で、不安や戸惑いもつきまとう、時に厄介なこの制度。会社員にとって“当たり前”でありながら、その意味や目的をつかみきれていない人も多いのではないだろうか。
今回、話を聞いたのは、立教大学経営学部教授で「大人の学びを科学する」をテーマに長年研究を続けてきた中原淳さん。東京大学卒業後、国内外の大学や研究機関で学びを深め、リーダーシップ開発や組織内学習などの著書・プロジェクトも多数手がける。
話を聞いたきっかけは、現在放映中のTBSドラマストリーム『スクープのたまご』。主人公で入社2年目の信田日向子(演=奥山葵)が、思わぬ“社内異動”によって、スクープを追う週刊誌の記者となり、新たな配属先で奮闘しながらも成長していく様子を描く。
単に“命令される”配置替えではなく、自己都合の異動も増えてきている昨今。新時代の「キャリア論」も広がる中、日本の社内異動の現状はどうなっているのか。そして、それをポジティブに捉えるためのヒントとは。
研究者の視点から語られる“使えるヒント”満載のロングインタビューを、中原さんの言葉をそのままに、お届けする。
会社都合の異動は減少傾向?――日本企業「社内異動」の“今”
日本の社内異動を語る上で、まず、多くの日本企業が取っている雇用の仕方は、「メンバーシップ型雇用」というものです。メンバーとして「村」に入るようなもので、村に入ったら、村民としての「メンバーシップ」を得られます。メンバーシップを得た後はどこに配属され、異動させられるのかも、基本的には会社に任されるというのが、メンバーシップ型雇用のあり方です。
経営の目から見れば、「異動」とは、適材適所に人を配置して、人の能力を伸ばすものです。もう1つは、例えば会社としてどうしてもこの部署に誰かが必要だとなったときに、そこに人を供給するしかないので、事業を存続させるためにも必要不可欠なものです。
日本は、いったん組織に入ったら、人事権がとても強力と言われていますが、今は「自分のキャリアは自分で築いてね」というような方針を取る会社もあるので、働き手のほうがキャリアを自ら選べるように、会社都合の異動はしないという動きも出てきています。
そうした新たなキャリアのあり方が出てきたのは、今から20年ほど前で、本格化したのは、10年ぐらい前。その辺りからだんだん、「自分の仕事を自分で選んで何が悪いの?」という風潮が出てきたのではないかなと思います。
社内FA(フリーエージェント)制度と言って、社員が自らの意思で異動や転籍をできる人事のやり方もあります。
日本企業は今、とにかく人手不足で労働力が確保できないので、辞められるのが一番怖い。1番象徴的なのは、若年層は特に「転勤を嫌う」ということ。だからなるべく、社員の希望を優先して、配属先を決める傾向にあると思います。とにかく「居てもらう」ことの方が、うれしいのです。
なので、会社都合の異動が減り、自己都合の異動の割合が増えて、今は大体半々ぐらいになってきていると思います。