かつて有名歌手のバックバンドを務めた経験もある82歳のサックス奏者の男性が引退を決意しました。
常連客に惜しまれながら最後の演奏会に臨みました。
楽器を持って約60年 82歳のサックス奏者
福岡市中央区西中洲にあるピアノバー「ステラ」。
伸びやかな低音を響かせるのは、サックス奏者の北尾勝さん・82歳です。
♪サックス演奏の音
来店客「音色が上品というか、お酒が進みますね。演奏に惹かれて2杯飲んじゃいました」
来店客「すごく音量が迫力があるというかびっくりしました」
スタッフ「佇まいもすごくダンディーで品が良くて色っぽい音を出されます」
ピアノバーステラ・マスター 藤木五郎さん
「今この辺で一番の年長者ですよ。現役で吹いている人で。北尾さんのテナーが僕は一番好きです。」
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「かれこれ楽器持って60年位吹いてます。今80歳超えたからですね」
かつては昭和の有名歌手のバックバンドも
北尾さんは若い頃、昭和のムード歌謡歌手・フランク永井さんのバックバンドを務めていました。
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「営業畑でやってきたから若い時はずっと有名人の歌伴奏ばっかりしてきたから、履歴書を書いたことはないんですよ。ミュージシャンの仕事というのは知り合いの紹介とか面談だけで決まる世界だから、全く履歴書なんか必要ないからですね。どんなポピュラーな曲でも私なりの解釈で何か印象に残るように演奏することを心がけてます」
自宅ではクラリネットで、指を動かす「運指」の練習をしています。
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「指が動かなくなるから指をとにかく常に動かしとかないと。認知症予防です。(指のタコを見せて)どうしてもここで支えるから」
北尾さんは4年前に最愛の妻に先立たれました。
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「奥さんが死んでしまったときに大分落ち込んだんですけど、その時に声かけてくれたのがバーステラのマスター。それからステラに出演するようになった。僕自身が子供がいないもんだからサックスは抱いてると子供みたい」
突然の引退宣言理由は・・・
この日は長年共演してきた音楽仲間とのセッションです。
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「長いことお世話になりました。とりあえず一応今日はお別れというつもりで来ました。隠居します」
音楽仲間「えー?!」
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「15、6年前から難聴なんだけど、今年になって急に酷くなって、医者に行って調べてもらって、別の補聴器と取り替えていざ音楽に臨んだらあんまり・・・補聴器ではやっぱり音楽にならない。そこでもうはっきり辞めた方がいいなと決心しました」
最後の曲は「ダニー・ボーイ」
引退を決意して3か月が経った8月30日、プロとして最後のステージに臨みました。
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「マスターきょう最後、よろしくお願いします」
一曲一曲思いを込めて演奏する北尾さん。美しいテナーの響きに観客も酔いしれます。
最後の曲は、アイルランド民謡の「ダニー・ボーイ」です。
後輩ミュージシャン
「いつまでも続けてほしいという気持ちはあるんですけど、私もそういう日(引退の日)がいつか来るかもしれないし、コツコツやって来てここまでって日が来るかもしれないけど、そういう日が来るんだって前提で日々(今を)大事に活動を続けていくっていうことを教えてもらったかな」
ピアノバーステラ・マスター 藤木五郎さん
「ジーンときましたよ」
サックス奏者 北尾勝さん(82)
「最後の力を振り絞りました。プロとして演奏することはもうないんだなと思うとちょっとさみしいですね。お客さんに少しでも音が響いてくれたら嬉しい。最後にここでやれたっていうのが最高の幸せです。しばらくは(サックスの収めたケースを)開けないですね。あっいや・・・磨かないかんですね」