先月12日、横須賀に寄港したイギリス海軍最大の空母「プリンス・オブ・ウェールズ」。中国やロシアを念頭に、インド太平洋地域の安全保障を強化する「ハイマスト作戦」の一環として入港した。イギリスのCSG(空母打撃群)が日本に寄港するのは2021年以来4年ぶりで2回目となる。2021年に寄港した姉妹艦「クイーン・エリザベス」はコロナ禍の影響で一般向けの艦内ツアーが制限されていた。
今回、記者は28日のメディア向けツアーと31日の一般公開に立ち会い、艦内を取材した。そして31日に地上波で2分程度のVTRを放送したが、そこでは伝えきれなかった艦内の様子もあり、本記事で伝えていく。
メディアツアー「横須賀から東京まで移動する“洋上の基地”に乗艦」
一般公開に先駆けて行われた28日のメディア公開。乗艦が許可されたのは1社につき1名のみだった。また、艦内に持ち込める機材はカメラやスマートフォン、記録メディアに至るまで全て事前登録が必要であり、艦内に入る前には手荷物検査があった。

米軍横須賀基地から東京国際クルーズターミナルに移動する同艦に乗艦。厳重な手荷物検査を通過したのち、最初に案内されたのは士官室(ワードルーム)だった。室内の壁にはチャールズ国王の肖像が飾られていた。また、ネイビーブルーのソファの上にはプリンス・オブ・ウェールズの羽根がデザインされたクッションが整然と並べられていた。



士官室で「ハイマスト作戦」や今回の寄港の意義について説明があったのち、報道陣は別の部屋に案内された。「艦内は機械音で声が聞こえないのでは」と心配していたが、実際は想定以上に静かで、時折流れるアナウンスの音には臨場感もあった。通路にはゴムの匂いと地下鉄にも似た油と湿気の匂いが充満し、時折、すれ違う隊員から香水の匂いが漂ってきた。通路にはそれぞれ目印となる名前が付けられていたが、それでも急勾配な階段を息を切らしながら登るうちに、数名がはぐれる場面もあった。
汗だくになりながら入ったFLYCO(フライコ=飛行管制室)は、空調が効いてひんやりしていた。参加者からも、思わず「涼しい…」との声が上がった。FLYCOでは、F35Bの格納庫からの引き上げやF35Bの離発着、ヘリコプターの発着という複数の管制を同時に行う。管制を担うイアン・チャドリー海軍中佐によると、一度に8機のF35Bを発進させ、4機ずつの隊を2分50秒毎に飛ばすという。




続いて案内されたECP(緊急操舵室)。艦の操縦や航行の指揮を行う操縦室である「メインブリッジ」が機能しなくなった際に使用される予備のブリッジにあたる。




プリンス・オブ・ウェールズの特徴である、反りあがった船首の頂上まで登ると、甲板の上にずらりと並ぶF35B戦闘機が一望できた。

甲板には5つの着艦スポットがあり、うち4つにはF35Bのエンジン熱に耐えられるよう特殊な金属塗装が施されている。濃い色になっている部分が特殊塗装を施している部分。

“海軍メシ”とも言われる食事はバイキング形式だった。木曜日だったこの日のメインはプルドポークバーガー。豚肉を柔らかく煮込んで割いた「プルドポーク」をバンズにはさんだもので、濃いめの味は食べ応えがあった。そのほかにも、サツマイモのようなものや、コールスローサラダ、ゆでた豆などがあった。



報道陣を驚かせたのは、艦内の売店の品ぞろえが豊富なことであった。店内にはお菓子やシャンプー、香水などの日用品から、ヘアアイロンやレゴブロックなど意外な商品まで、幅広く陳列されていた。そして、入口すぐの目立つ一角に、王立海軍ロゴのタンブラーや同艦の紋章がついたメダルなどが販売されていた。売店はポンド決済で、「現金のみ!クレジットカード利用NG」との張り紙があったが、実際はクレジットカードで購入できた。

続いて案内されたのは、24時間開いているというジムである。有酸素とウェイトルームの2部屋に分かれており、艦の中とは思えないほど設備が整っていた。


