陸上競技の富士北麓ワールドトライアルが8月3日、富士北麓公園富士山の銘水スタジアムで行われた。男子400mは中島佑気ジョセフ(23、富士通)が44秒84の日本歴代3位で優勝。この種目では初の東京2025世界陸上参加標準記録(44秒85)突破者となった。中島は故障明けの日本選手権で4位と敗れたが、日本選手権1~3位全員が標準記録を破らない限り代表入りする。中島は23年のブダペスト世界陸上準決勝で、あと1人で決勝進出を逃したが、あと1人の差を埋める努力が実りつつある。
44秒台にこだわらなかったことで44秒台を実現
桐生祥秀(29、日本生命)の8年ぶり9秒台と、学生の守祐陽(21、大東大4年)の10秒00。男子100mの快記録に続き、男子400mの中島の44秒84にも驚かされた。1か月前の日本選手権ではハムストリング(大腿部)肉離れの故障明けということもあり、45秒81の4位と振るわなかったのだ。1か月で1秒も縮められた理由は何だったのだろうか。
「故障明けで45秒81は悪くありませんでした。日本選手権後は(小さな)痛みがあっても練習は積めるようになって、スピード練習でレース感覚も戻して来られました。あとはケガをした原因の体のバランスの悪さを是正してきました」
標準記録を出さなければ代表に入れないが、タイムを出す意識が強すぎたことが走りに影響していた。
「44秒台にとらわれず、自分がやりたい動きに注力して走りました」
学生時代から中島を指導する東洋大・梶原道明監督が、補足説明をしてくれた。
「ハムを痛めた原因は殿部の筋肉が使えず、ハムに余分な負担をかけていたことでした。ミニハードルやスキップなどのドリル(動きを矯正するためのメニュー)も行って、殿部を使ってハムに負担をかけない、腰高の走りが安定してきました」
44秒台にとらわれた結果、「前半の200mを速く入らなければいけない、という固定概念も作ってしまいました」(中島)。リラックスした動きで速く走ることを意識してきたつもりが、「焦りや義務感から、前半を力んで走っていました」と中島は振り返る。
「今日の前半はスーッと乗って行く感覚で、脚が勝手に進みました。200m通過タイムもたぶん良かったと思います」
44秒77の日本記録を持つ佐藤拳太郎(30)や、44秒88の日本歴代4位を持つ佐藤風雅(29、ミズノ)は200mのスピードを高めることを、400mにつなげるスタンスで成長してきた。それに対し中島は400mトータルでタイムを上げるタイプだった。200mの自己記録も佐藤拳は20秒63(向かい風1.0m)、佐藤風は20秒67(追い風0.4m)なのに対し、中島は出場レース数が少ないとはいえ21秒31(追い風1.8m)である。
「僕はエンデュランス(持久)系。200mを無理に飛ばすのでなく、400mをまとめるペースで組み立てる意識に変えています」
中島が前自己記録の45秒04を出したのは、2年前のブダペスト世界陸上準決勝。そのレースの200m通過は21秒56だった。飛ばさない意識で走った富士北麓の200m通過が、実際何秒だったのか、早く知りたいところだ。