仕事の合間をぬっては会う約束を
「よっぽどお腹が空いていたのね」とターニャ親子から笑いがおきるほど、食べ方が滑稽だったのかもしれないが、ターニャが自分のために料理してくれたかと思う
と、それが嬉しかったし、より味を引き立ててくれていたのだろう。
「俺にとっては、あれがシベリアの思い出の味覚だよ」

ターニャのボルシチも忘れ難い記憶に残る味だった。
彼女の家を訪れた後は、2人の関係はより親密になっていった。仕事の合間をぬって、会う約束を取り交わした。
全てロシア語での会話だったため、部下に知られることもなかった。後ろめたさがなかったと言えば嘘になるが、罪悪感などは微塵もなかった。
会う約束をした日は、妙にテンションも高くなり、どれだけ疲れが溜まっていても仕事ではやる気が漲っていた。最初は憧れの存在だったターニャに、いつしか恋心を抱いていたのだ。
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【CBCテレビ論説室長 大石邦彦】