脱税の罪に問われた日本大学前理事長の田中英寿被告(75)に対し、東京地裁は懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円の判決を言い渡した。日本最大規模の大学のトップが有罪となった裁判。田中被告をよく知る日大元職員がJNNの取材に、“日大のドン”の栄光と転落について語った。

■被告となった田中前理事長「痩せて、顔やつれ」

3月29日午後1時半、東京地裁・104号法廷。黒のスーツに赤のネクタイ姿で、髪をオールバックに整えた田中被告が現れた。「被告人は証言台の前に来て立って下さい」。静まる廷内で裁判長が呼びかけると、大きな体の田中被告がゆっくりとした足取りで証言台へ向かい、裁判長を見つめて直立した。

「主文、被告人を懲役1年及び罰金1300万円に処する。この判決が確定した日から3年間、その刑の執行を猶予する」

両手の指先をピンと伸ばしたまま身動きせず、主文を聞いた田中被告。その後は椅子に座ってうつむいたまま、判決に耳を傾けた。裁判長に促されて再び立ち上がり、改めて量刑を伝えられると、田中被告は頷き、最後は裁判長に一礼して法廷を後にした。

そんな田中被告を、傍聴席から見つめる男性がいた。日大の元職員で、田中被告が相撲部監督から理事長に上り詰め、日本最大規模の大学を支配するに至った過程を近くで見てきた人物だ。

「かなり痩せ、顔もやつれたような気がした。理事長の時はもっとドシッとして、顔にも精気がみなぎっていたのに・・・。理事長というトップの座から刑事被告人に滑り落ちたんだと裁判を通じて実感した」


■相撲部監督が大学トップに きっかけは「総長選」


日大に進学して相撲部に入部し、「学生横綱」として名を馳せた田中被告。卒業後は日大の職員となり、相撲部の監督に就任すると、元大関・琴光喜ら多くの名力士を育てあげた。

元職員は「『田中監督に教わりたい』と部員が集まり、何十人もプロに送り出した実績はみんなが認めていた。卓越した指導者だった」と振り返る。

一職員に過ぎなかった田中被告は、どのように異例の出世を遂げたのか。きっかけは、大学のトップを決める「総長選」だった。元職員によると、1996年の総長選の際、田中被告は運動部の幅広い人脈を使って票を集め、支持した副総長が総長となった。すると、田中被告は3年後の1999年に理事、2008年に理事長に就任。2013年には総長ポストを廃止して理事長を経営トップとする体制に変更され、田中被告はまさに巨大組織の頂点に君臨することとなった。

「田中被告は気に入った人を仕事の能力に関わらず昇格させ、意に沿わない人は左遷するなど人事で差を付けた。周囲にはイエスマンばかりが集まり、組織が腐敗していった」と元職員。いつしか、出世を目指す教職員らが田中被告の妻が経営するちゃんこ料理店に通う「ちゃんこ屋詣出」が日常化していったという。

しかし、13年続いた田中理事長体制は突然、終わりを迎えた。東京地検特捜部が去年10月から11月にかけ、日大の資金を不正に流出させた背任の罪で、元理事の井ノ口忠男被告(65)らを逮捕・起訴した。特捜部はこの捜査で背任事件の資金が田中被告に渡っていたことを把握。この資金など1億円余りの所得を隠したとして、田中被告を脱税の疑いで11月に逮捕し、12月に起訴した。田中被告は理事長を含む日大の全ての役職を失った。


■裁判で不満隠さず 意見陳述は「棒読み」


2月15日の初公判で田中被告は「争う気はありません」と起訴内容を認めた。被告人質問では「理事長として責任は感じています」と述べ、「反省」を何度も口にした。しかし事件の認識について問われると、不満を隠さない場面もあった。

検察官:
「納税は国民の義務でみんな正直に申告している。そういう認識はないですか?」

田中被告:
「ずっと真面目にやってきましたよ・・・。ただその点については反省します」

検察官:
「日大理事長は社会的立場のある人。社会的責任はどう考えていますか?」

田中被告:
「十分反省しています。関係者に迷惑をかけたことは反省してます。(しかし)理事長ではないので今は考えてないです」

裁判長:
「『反省しています』と言っていたが、他に具体的に言えることはありますか?」

田中被告:
「反省していますが、自分がなんでこうなったのか理解できないところもあり、自分なりに残念に思ってます」

検察側は3月7日の論告求刑で、懲役1年、罰金1600万円を求刑。一方、弁護側は執行猶予付きの判決を求めた。その法廷でも田中被告は意見陳述でこう述べた。

田中被告:
「え~、繰り返しになりますが、世間をお騒がせして大変申し訳ない。日本大学の学生や父兄に無用な不安を感じさせたことを深く反省してます。今後の日本大学の発展を心より願っています。以上です」

裁判を傍聴した元職員は「最後の意見陳述があんなに短いとは」と驚いた。

「原稿を棒読みしたような感じだった。田中被告は青森出身で感情移入している時ほど抑揚で訛りが出る。それがなかった。大学・学生にどういう迷惑をかけ、今後どう償っていくのかを自分の言葉で具体的に話して欲しかった」


■「油断できない男」「復権の余地」


3月29日の判決で東京地裁は現金を自宅で保管するなどし、妻に脱税するよう指示した。単純ではあるが、大胆な手口」「業者から謝礼を受け取っていたことが表沙汰となるのを避けたいなどと考え、犯行に及んだ動機は身勝手と指摘。一方、田中被告が起訴内容を認め、日大の役職を辞めたことなどを踏まえ、執行猶予付きの判決が相当だと結論づけた。

神妙な様子で判決を聞いていた田中被告。元職員は「学内であんな態度は見たことがない。常に胸を張って、体が大きいのもあるが上から目線だった。反省しているところを見せたかったのではないか」と語った。判決については「実刑を望んでいたので残念」「理事長に“復権”する余地が残ってしまった」と話した。

事件の後、日大は約90億円に上る国の補助金が「全額不交付」となったほか、日大によると、今年度の一般入試の志願者数は約9万4000人と、前年度と比べて4000人程度減った。

田中被告は現在、相撲部の後輩ら友人たちに身の回りの世話をしてもらいつつ、体調が悪い妻の看病に専念しているとされる。判決後、弁護士を通じて「判決を厳粛に受け止めております」とコメントを出し、控訴しない意向を明らかにした。

そんな状況で「復権」の可能性はあるのかー。記者が尋ねると、元職員は田中被告が過去に暴力団との交際疑惑が取り沙汰された際にも、その地位が揺るがなかったことを引き合いに出して、こう言い放った。

「私もないと思う、ほとんどないとは思うが、とにかく油断できない男ですから、田中及び田中一派は」
「田中被告を背任の罪には問えなかったが、特捜部という外圧が入って組織が変わる兆しが見えてきたのは良かった」


そして「『田中』という権力者がなぜ生まれたのか。組織の問題として考え、生かさないといけない」元職員はこうつぶやき、裁判所を去った。

TBSテレビ社会部
八角健太