「ブリ」という魚の名前を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。多くの人は「おいしい」「高級」「お祝い」といったイメージを持つかもしれない。しかし、この魚には日本の食文化や言語の多様性を物語る興味深い一面がある。金沢大学名誉教授の加藤和夫さんが、情報番組で語った「ブリ」にまつわる話題を紹介する。
「ブリ」vs「サケ」:日本を二分する祝い魚の境界線
加藤さん によると、日本には祝い事に用いる魚の種類に、大まかな地域差があるという。「西日本はブリ、東日本がサケ なんですね」と加藤さんは説明する。この境界線は、地質学でいう「フォッサマグナ」とほぼ一致し、長野県と新潟県を境に東西で分かれるそうだ。方言で東西対立が見られる場合の境界線もこの付近に走るものが多く、この違いは、単なる好みの問題ではない。各地域の漁獲量や流通の歴史が深く関わっている。「西日本ではサケはあまり取れませんからね」と加藤さん。地域の自然環境が、食文化や言語にまで影響を与えているのだ。
「ワニ」がサメ?驚きの方言と古代日本語の痕跡
話題は「ブリ」だけにとどまらない。加藤さんは、サメの方言分布にも触れた。「特に興味深いのは北陸も含めた日本海側。この地域ではサメのこと、ワニ(石川ではワンとも)と言っていました」と語る。爬虫類のワニと同じ呼び方をするワニという方言は、実は古代日本語の名残なのだという。「古事記に載る神話「因幡の白兎」にワニ(和邇)の形で出ているので、サメの言い方としてはすごく古い名前なんです」と加藤さんは解説する。この事実は、方言が単なる地域差を示すだけではなく、日本語の歴史を紐解く重要な手がかりになる場合があることを示している。