日本の産業界への影響

日本の産業界にとって、レアアースの安定供給が何より大切だ。しかし、日中関係においてレアアースが外交カードとして使われてきた歴史がある。2010年、沖縄県の尖閣諸島沖で中国の漁船が日本の海上保安庁の巡視船に衝突した事件があった。日本側が中国人船長を逮捕したことに中国が反発し、対抗措置として日本向けのレアアースの輸出禁止に踏み切った。

2023年12月には、中国はレアアースを加工して磁石をつくる技術を輸出禁止にした。この禁輸措置はアメリカが高性能半導体の中国向け輸出を規制したことに対抗する狙いがあった。

レアアースの安定供給を確保するためには、中国への依存を下げ、自国や同盟国で調達、精錬・加工するのが一番である。最近、日本を含む国際社会で頻繁に登場するキーワードに「経済安保」がある。レアアースの安定確保がこの経済安保の中核を成している。

グリーンランドの重要性

トランプ氏は、デンマーク領グリーンランドの入手に躍起だ。それは安全保障面の理由だけでなく、レアアースなどの地下資源がグリーンランドに存在することが近年明らかになったからだ。レアアースの中国の支配に対処するためだ。

アメリカはレアアースを確保しようと懸命に取り組んでいる。一方、中国は新興国や途上国にある重要鉱物への支配力を増そうとしている。レアアースなどの重要鉱物資源の採掘・加工を目的に、国際的なサプライチェーンを掌握しようとしている。

先週の放送で、中国人の特殊詐欺グループの拠点がなぜミャンマーにあるかという話をした。背景には中国とミャンマーの密接な関係がある。ミャンマーはレアアースの採掘量のシェアが世界第3位であり、中国、アメリカに次ぐ3位だ。ミャンマー産レアアースの大半を買い取るのは中国の企業である。

ウクライナの鉱物資源とアメリカの戦略

トランプ氏は「drill baby drill !」という言葉を好む。ウクライナでも同様に「掘って、掘って、掘りまくれ」ということだ。中国からすれば、グリーンランドだけでなくウクライナにもアメリカが手を伸ばすのは「世界地図が変わる」かもしれないわけだ。その両国首脳の激しい口論、会談の決裂を中国がどう見ているか? 自ずとわかるだろう。

最後に、先の会談でトランプ氏がゼレンスキー氏にまくし立てた言葉を紹介して締めくくる。

「あなたに残されているのは、取引を成立させるか、我々が手を引くか、そのどちらかだ。我々が手を引いたら、あなたたちで決着をつけることになる。合意書に署名すれば、あなたはずっといい立場になる」

我々は今、超大国のこのようなリーダーがいる時代に生きている。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。