日本の自動車メーカーの中国マーケットは縮小傾向

日本の自動車メーカーは依然、ガソリン車が主軸で、日本勢は中国市場で苦戦している。少し前まで、中国人が抱くトヨタ、ホンダ、日産といった日本車への「崇拝」「神話」はすさまじかった。

私が新聞社の北京特派員だった20年前、オフィスの社有車を買い替えた。クルマを買う前、雇っていた中国人ドライバーが、私にこう哀願した。「買うなら、次も絶対に日本のメーカーのクルマにしてくれ。ヨーロッパや韓国のメーカーのクルマだったら、運転手仲間の間で、自分は肩身が狭い。まして性能が悪くてダサい中国のクルマなんて」と。

私は欧米や韓国のクルマの方が、安いから、そっちにしたかったが、日本車の新車を選んだ。その中国人ドライバーは、鼻を高くしていた。それが今や…。電気自動車を含む中国メーカーの新エネルギー車が国内だけではなく、世界市場を席巻している。まさに隔世の感がある。

日本メーカーのクルマの販売減は深刻だ。中国のメーカーは手頃な価格ながらも高性能な電気自動車(EV)やハイブリッド車の新型モデルを次々と出し、市場シェアを拡大している。

先週、日本の自動車メーカーの、世界での昨年の販売台数がまとまった。トヨタは5年連続で世界トップを維持したが、中国の新エネルギー自動車の大手・BYDが初めてホンダ、日産、スズキを抜いた。BYDの販売台数は実に41%も増えて427万台。BYDをはじめ、価格競争力が高い中国勢の攻勢で、日本勢は苦戦を強いられている。

日産は中国国内の一部の工場を閉鎖。三菱自動車は中国での生産・販売から撤退した。ガソリン車が主体の日本勢は、どこも中国での戦略が転機を迎えている。

世界全体のEV販売台数の4割占める中国

中国ではEV車を購入する人への補助が手厚い。「2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指す」と、中国政府は国家指針に定めている。柱の一つが、電気自動車など新エネルギー車と呼ばれるクルマの普及だ。中国の2023年の電気自動車販売台数は810万台。世界全体の電気自動車の販売台数は約1400万台だから、中国が約6割を占める。一方、日本は同じ2023年の電気自動車販売台数は14万台と世界のわずか約1%だ。

中国は国が号令をかけると、業界全体がそれに従う。スピーディーだ。EVという得意分野の産業育成という意味合いもあるのだろう。

BYDは会社ができて今年30年。自動車事業に参入して、まだ22年の新興メーカーだ。急速に進む中国のマイカー移動ブーム、同時にその移動手段は中国国産自動車メーカーの新エネルギー車が柱になりつつある。それは、日本の自動車メーカーの中国市場、国際市場での衰退を意味し、中国の道路を走る日本車が減っている。そんな風景が見えたのが、春節の「民族の大移動」と言えるだろう。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。