◆「夫婦同姓」を拒否した法務省


日本には「戸籍」というのがあります。実は、世界にはあまりなく、中国とか台湾くらいにしかなくて、それもかなり形骸化しています。日本だけは、ビシッと残っています。国籍の話は、戸籍があるために、もっとややこしくなるんです。

Ichiro Tabataくんは日本の女性と結婚しました。仮に「武田知子」さんとしましょう。武田さん、婚姻届を出したんですけど、相手のIchiro Tabataくんには日本の国籍がありません。武田知子さんは入る戸籍がないんです。自分の戸籍謄本には「連合王国民タバタイチロウと婚姻」とカタカナで書いてあります。生活上の姓は同じ「田畑」なんですけど、戸籍がないので、公的な文書では旧姓の「武田」しか使えません。


当時は、夫婦別姓を望む人はほとんどいなかったので、別姓だと「愛人」のように思われてしまうという時代でした。武田さんは、新婚旅行に行くのにパスポートを取るとき「同じ田畑姓にしたい」と法務省に言ったんですが、ダメ。「夫婦同姓がダメ」と言われるという非常に珍しいケースです。

◆Ichiroと知子の子供はどうなる?


この方の娘さんが、私のお友達なんです。仮に「奈也花(ななか)」さんとしましょう。東京で生まれ、日本語を母語として育ちました。でも日本は「生地主義」(生まれた場所で国籍が与え​られる)ではないので、日本国籍にはなりません。


当時の日本は「父系血統主義」。今は母親でも大丈夫ですが、当時は父親の国籍だけ。だから英国籍を引き継ぎました。母親の日本国籍は引き継げません。つまり奈也花さんは、生まれた時から「在日外国人」。両親とも日本人だった人ですけどね。国籍はあるけど、戸籍はないんです。

「奈也花」という漢字名を日常生活で使っているんですが、通称に過ぎません。パスポートは「Nanaka」と英語で書いてあり、正式名はアルファベットなんです。選挙権はないのに、所得税や住民税は払っている奈也花さん。日本人と結婚しましたが、戸籍がありません。「ないものは入れられない」から入籍できないんです。夫の戸籍にだけ、「連合王国民Nanakaと婚姻した」と書かれているというのです。

戸籍というものがあることで、ものすごくややこしくなっています。本来、国籍で考えるべきかなとも思います。

奈也花さんの意見


「家族の姓が同じでないと一体感を得られない、という主張には、全く説得力がありません。私たちはちゃんと暮らしてきました。国籍に関係なく、同姓にしたい夫婦には同姓を認めてほしいけども、実は国はそれを許していません。夫婦同姓を認めていないのです」


神戸金史(かんべかねぶみ) RKB毎日放送 解説委員 1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKB(福岡市)に転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。