スイスで仕事をしていた日本人の社長がいました。ところが入札に参加する際、スイスでは「社長にスイス国籍がないと入札が認められない」ということだったので、日本の国籍がなくなるということを知らないままスイス国籍を取得したそうです。
数年後にパスポートを更新しようとしたら、日本国籍がないと判明して「えー!」と。国籍法にそもそもこういう条項があるのは憲法違反なんじゃないかと裁判を起こしています。1審は敗訴しましたが、控訴中です。
もう一つ、アメリカに住んでいる日本人女性の話。日本に高齢の母親がいて、体調を崩して介護が必要になりました。長期間、日本に滞在して母親の介護をしたいんですが、アメリカのグリーンカードは、日本に長期滞在すると失効してしまいます。夫のいるアメリカにもスムーズに戻れるようにするには、どうしたらいいでしょうか?
考えた末に、アメリカ国籍をこの女性は取得しました。つまり、日本の国籍を失いました。「これはおかしくないですか?」と、裁判で原告の支援者として活動しているそうです。
実は国籍法にはこういった問題があります。二重国籍というのが一時問題になりましたが、国籍が2つあって何でまずいのでしょうか? 国際社会なのに。ノーベル賞の話を聞いても「よくわからない」というのが正直な感想です。
昨年、真鍋さんのニュースを見てから、いろいろ考えていました。ちょうど、居酒屋で友達になった女性がいて、話していたら非常に面白かったので、ご紹介します。
◆国籍には「生地主義」と「血統主義」が
まずはルーツをさかのぼります。
日本のご夫婦が100年近く前にイギリスに渡りました。1930年に息子が生まれました。仮に「田畑一郎」くんとしましょう。田畑一郎くんはどんな国籍になるでしょうか?
【補足】イギリスは原則「生地主義」ですが、世界に植民地が広がっていたため、海外や植民地の出身者には、血統主義も取っています。

日本は血統主義ですから、イギリスで生まれた田畑一郎くんは、日本国籍を持ちます。そしてイギリスで生まれたから、英国籍も持ちました。つまり二重国籍になったんです。
さて、田畑一家は戦争前に日本に戻ってきました。敗戦となり、田畑一郎くんは英語ができるため、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に勤めました。日本では22歳になると、どちらかの国籍を選ばなければいけません。GHQで働いていて、頭の中では英語でものを考えている田畑一郎くんは、英国籍を選びます。その時、日本国籍がなくなったので、漢字の表記もなくなりました。東京で暮らす「在日イギリス人」のIchiro Tabataになったんです。
※英国籍=「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」国籍














