マウンドに向かう背番号「7」を広島マツダスタジアムに詰めかけたファンの大きな拍手が包み込んだ。
根尾昂、プロ入り初の先発。
ドラゴンズファンもそしてカープファンも、プロ野球ファン注目の登板となった。

2022年のシーズン最終戦、根尾“投手”にとっては波乱万丈、そしてこれからの野球人生にとって大きな節目の年となった。

根尾にとっての3ポジション

1年前のことだった。
新たに就任した立浪和義監督は、秋季キャンプの最終日に「根尾は外野1本」と決めて、本人にも伝えた。
その強肩を活かすためであり「打てばライトのレギュラー」とまで具体的に期待を寄せた。

しかし、シーズンが始まると外野の新たな顔として岡林勇希選手が台頭、開幕1か月後にショートのレギュラーだった京田陽太選手の調子が上向かないと、根尾選手は外野から内野のショートへ再コンバートとなった。
ポジション変更はそれだけに留まらなかった。

5月21日のマツダスタジアムでは8回にリリーフとしてマウンドに上がった。
その後、正式に「根尾は投手」と決まり、登録も「投手」とされた。
根尾選手は同一シーズンで、外野手、内野手、そして投手と、3つのポジションに就いたのだった。
昨今のプロ野球でも極めて珍しいことだった。


投手・根尾昂の歩みには?

投手として最終戦前まで24試合に登板した。
すべてリリーフで、中継ぎがほとんどだった。
接戦のゲームはあまりなく、試合の趨勢が決まった後での登板だった。
讀賣ジャイアンツの4番だった岡本和真選手を見事に三振に取ったこともあれば、痛打されて失点を重ねた試合もあった。
勝敗はつかずホールドは1つ、防御率は3.81だった。

7月末のオールスターゲームの後に、ウエスタン・リーグの2軍で先発経験を積ませるのではという見方もあったが、立浪監督と落合英二コーチは、シーズンの最後まで1軍で手元においた。

1軍と2軍の空気感はまったく違う。
それは根尾投手への大きな期待の表われでもあり、その終着点がシーズン最後での先発の機会だった。