劇的な進化を遂げた練習施設
ただし、練習施設は劇的な進化を遂げていた。まるでプロ仕様の最新鋭の設備が整えられていたのだ。倉野光生監督が弾道測定分析機器の説明をイチローさんにする。
倉野光生監督:
ここにビデオカメラを設置すると自分の投げたフォームがビデオカメラを通じてモニターに映る。あそこでスピードと回転数が瞬時に出る…

投球の回転数や回転軸などの幅広いデータが取得可能であり、バッティング練習でも、一球ごとに打球の速度と角度を測定出来る。厳しさだけでは通用しなくなった今の時代、試行錯誤を続ける指導者にとって、データは選手に説得力を持たせるための材料でもあった。
イチロー:このデータのシステムは…
倉野監督:このデータは4年ぐらい
イチロー:それと結果は比例しました?
倉野監督:4年間ずっと勝てる(甲子園に出場)秘訣の一つ…
イチロー:高校野球で導入してるところは?
倉野監督:ここまでやってるところは聞かんな、ここまで設備が整ってるとか…
「怖いなと思いました…プロにとっても邪魔なんです」
最新鋭とも言える施設を見た時の事をイチローさんは後日に振り返った。
イチロー:
あれは怖いなと思いました。高校生どころかプロにとっても邪魔なんです。そういう練習があっていいんだけど、毎回あれされたら、準備段階からそれされちゃうわけだから、全く必要ない。

イチローさんはデータを否定している訳ではない。選手がデータを鵜呑みにする事に危機感を抱いているのだ。だからこそ、後輩たちにも考える事を大事にして欲しかったのだ。
自分で考えて動いてほしい「感性が消えていくというのが現代の野球」
イチローさんが母校のグラウンドに姿を現した。待っている部員達の間から拍手が起こる。
イチロー:
いや、拍手いらないから。後輩、拍手いらないよ。はい、こんにちは!
部員:こんにちは!
イチロー:
はじめましてだよね、みんな。イチローです…秋の成績は?
部員:ベスト16でした。
イチロー:
そんなの1回戦負けと一緒でしょ、愛工大名電にとっては。どうなの今の状態は?みんないい身体してるけど、鍛えている感じあるけど、どう?

イチローさんがさらに問い掛ける。
イチロー:
今、寮から始まって、雨天練習場、球場見学をさせて貰いました。いろいろなデータを参考にしながら頑張っているって聞きました。気になったのは、いろいろな事がデータで見えちゃうでしょ。でも見えてないところをみんなは大事にしているんだろうか…野球ってそれだけじゃない事あるよね、気持ちがどう動くとか、感性。データでがんじがらめにされて、感性が消えていくというのが現代の野球。自分で考えて動く。一緒に動くので。