「一番底辺の、一番弱い人たちを最後に救うものが“法”」

たとえ国際ルールが通用しない相手でも、正義を実現するためにあるのが国際刑事裁判所(ICC)だ。

ICCは去年3月“ウクライナの子どもたちを強制的にロシアに移送した戦争犯罪”容疑でプーチン大統領らに逮捕状を出した。これに対しロシアは反発。ICC上層部に対して逆に逮捕状を出し指名手配した。

さらに問題は、今年プーチン大統領がモンゴルを訪問した際、モンゴルはICC加盟国であるにもかかわらず逮捕どころか国を挙げて歓迎した。

ロシアからは“逆指名手配”、加盟国がロシアを歓迎…。今ICCは危機に直面している。番組ではキャスター自らICC所長にインタビューした。日本人として初めてICCのトップに就任した赤根智子所長だ。

国際刑事裁判所(ICC)赤根智子 所長
「(ロシアの指名手配、怖さはなかった?)そういう感情より“やっぱり来たか”という感じでした…。去年の9月に大々的なサイバー攻撃があって一時ICCのITシステムがダウンした。もう少し前には、ロシアのスパイと思われる人がICCに入り込もうとしてオランダの警察に捕まったという事件もあった…。色んな脅威があるということは承知してます」

脅威はロシアばかりではないという。先月ICCは“戦争の手段としてガザ地区の住民を飢餓状態に陥れた戦争犯罪”容疑で、イスラエル・ネタニヤフ首相らに逮捕状を発行した。

これに対しアメリカ・バイデン大統領は「ハマスとイスラエルを同列に扱うのは言語道断」と発言。下院議会はICCの職員や関係団体への制裁案を可決した。この流れは法案の内容にかかわらず、様々な企業とICCとの取引に影響することを赤根所長は懸念する。

国際刑事裁判所(ICC)赤根智子 所長
「アメリカがICCへの制裁に踏み切れば、ヨーロッパにある企業あるいは銀行、日本にある銀行そういうものが“ICCとは取引しません”というような…法律そのものより“波及効果”ですね…。ICCの口座が凍結される…、あるいは裁判官の個人口座が凍結される…。

そうすると給料を払えない、住宅ローンが払えないというような…さらにICCの裁判所内のIT関係がマイクロソフトなんです。これアメリカの会社なんで、即取引が停止してサービスが受けられなくなる。そうすると裁判自体できなくなる、ICC全体の業務が停止するということになります。ほぼ潰れたと同じ状態…」

第二次大戦後の東京裁判もニュルンベルク裁判も戦勝国が敗戦国を一方的に断罪するものだった。

世界の秩序を守るために公正で国際的な司法組織が必要だとして生まれたのがICCだ。誕生までには長い時間が費やされ、2002年にようやく始動した。だが国連の常任理事国のうちアメリカ、ロシア、中国が加盟せず、イスラエルも入っていない。現在124の国と地域が加盟するが、その実行力は理想とはかけ離れている。

国際刑事裁判所(ICC)赤根智子 所長
「私はどこに行っても『ICCがなくなったらどういう世界になるか想像してください』って言うわけです。戦後世界の英知を集めてようやくできたICCが、少しずつでも法の支配というもとに裁かれるべき人は裁かれるという世界になっていくことを目指して…」

元々“正義のために仕事がしたい”と検察官になったという赤根所長。最後に松原キャスターが聞いた…、「“法”の持つ最も大きな力って何だと思われますか?」

国際刑事裁判所(ICC)赤根智子 所長
“法”っていうのは人間生活の中で最後のセーフティーネットみたいなもの。法律家が陥りやすい間違いっていうのは法律家が何でも仕切っていると思い込むことです。そうではなくて一番底辺の、一番弱い人たちを最後に救うものが“法”であるべき出し、そうなっているべき…。ICCはそのためにあるんだ、と…」

ICCの存続のカギを握るのは“ならず者国家”でも“テロ国家”でもない民主主義を標榜している超大国アメリカなのである。そして、日本はICC最大の拠出国であり法の支配を尊重する国。赤羽所長が日本に求めることとしてはただ一つ、同盟国としてアメリカが制裁するようなことはしないよう働きかけてほしいということだという。

(BS-TBS『報道1930』12月20日放送より)