超弩級戦艦「武蔵」。この船を建造した造船所がある長崎市の人にとってその名前には兵器であることを超越した特別な響きがあります。そして2024年は「武蔵」が沈没して80年の年でした。空前絶後の武装と防御を備え”不沈艦”と呼ばれた武蔵は何故、何の戦果も挙げることなくあえなく沈没してしまったのか?NBCでは1995年、元乗組員や日本海軍の幹部、そして造船部門のキーマンとされる人たちを取材して「武蔵」とは?そして、その意外な”弱点”を取材し放送していました。その後の取材結果も加えて沈没から80年の年、改めて戦艦「武蔵」に迫ります。

戦艦武蔵 (Naval History and Heritage Command)


46センチ主砲

建造主任室付きの技師だった梅住剛さんは「武蔵」の船体工事艤装に深く関わってきました。46センチ主砲の試射の時に起きた出来事をこう話す。

梅住剛さん

「ガラス割れるからね。ブリッジのガラスが割れたんです。デッキが焦げた。もうただバーっと真っ黒。これ、まあ少し茶色みたいな黒でね、バーっと」。

46センチの主砲の1発の弾丸の重量は1460キロ。発射時の爆風、熱、圧力は強大だった。海面上およそ40メートルに設置された主砲照準用の光学式測距儀。この取り付け工事も梅住さんの担当だった。電波にも造詣があった若い技術者にとって、大きな光学式の測距儀は当時すでに旧式だったという。

「今更ね、15メートル光学ファインダーをね、つけなくたって。で、もう極超短波を出してね、反射面並べてやってくれれば、俺はこんな苦労しなくてすむのになって。僕たちとしては、大艦巨砲主義はちょっと時代遅れじゃないかなという。やっぱり時代の変わり目が僕たち昔じゃなかったかなって気がする。だけれども、やっぱり大艦巨砲ってやつは造船として一回やってみたいもんね。そういう矛盾を持ってましたね」。

46センチ主砲 (Naval History and Heritage Command)


発射した巨弾を目標に当てるのは実際はかなり難しかったようだ。

まっすぐ飛ばすためにずらして発射

「3連装の主砲は同時に発射しても100分の何秒か差をつけているんです」。武蔵の砲術士だった原口静彦さんによると3本並行して並んでいる主砲の弾はピッタリ同時ではなく少しずらして発射するのだという。

武蔵の元砲術士 原口静彦さん

わざと時間差をつける理由は発射された弾が空中で互いに干渉するのを防ぐため。発射後の46センチ主砲弾の初速は音速の2倍を超える秒速780メートル。これが空中で並んで飛ぶとベルヌーイの定理で負圧が起きてお互いが寄せられる方向に力が発生する。

「同時に発射すると互いに干渉して弾が暴走するんです。ちょっとずらして発射すると干渉しないからまっすぐ飛ぶんです」。

主砲の射程は42キロ。当時の艦砲としては最長距離を誇り、戦術的には相手の弾が届かない遠距離から攻撃を始めることが可能だった。アウトレンジ戦法と呼ばれ「武蔵」「大和」が無敵である根拠の一つだった。しかし、斜め上に撃ちあげ放物線の軌道を描いて飛ぶ主砲砲弾は直線で42キロの距離であっても実際は更に長い弾道で飛ぶことや空気抵抗もあって弾の速度が落ちるため目標弾着まで1分40秒もかかっていたという。撃った時にそこにいた目標は当然動く。砲術として相手の未来の位置を予測して発射するというテクニックもあったが「武蔵」自らも敵の弾を避けるため複雑な動きをする中でさらに射撃の難易度が上がる。

世界一の巨砲をもって敵艦をせん滅する目的で建造された戦艦「武蔵」。しかし「武蔵」は沈没するまでに敵艦に向かって46センチ砲を打つことはなかった。(NBC長崎放送 長征爾)