「できないって言いたくない」
この秋、イチローには、選手として出場する予定の試合があった。日本の高校野球女子選抜と彼が率いる草野球チーム「KOBE CHIBEN」との対戦だ。
マリナーズが遠征中だったある日、コンサートの準備が進むフィールドで、イチローは自分のための練習に励んでいた。

イチロー:(記者に対して)走る姿とかどうですか?大丈夫?それが大事なとこだから、何か気づいたら言ってくださいよ。マジで言ってくれる人いなくなってきてるから。おじさんになるとさ、そうなっていくじゃない。危険だよね。それ教えてほしいよね、あったら。あったら修正する自信はあるんで、それ放っておかれたらそのままだから。
屋外での練習を終えるとグラブを磨き、スパイクの汚れを払うなど、道具の手入れを怠らない。メジャーの選手には珍しいことだという。
イチロー:(スパイクの裏をブラシで磨いて)こうやってやってんの。アメリカの選手、やらないだろうね。僕はやっぱ気になっちゃうからね。こういうの僕、大好きです。道具が好きだからね。気持ちいいよ、でもやっぱ。綺麗になっていく。
選手がいない時は、施設を使うチャンスだ。少年時代から、細身の体へのコンプレックスもあった。どうすれば打球を遠くへ飛ばせるか。考えに考え、練習を続けてきた。
イチロー:(バッティング練習を終えて)仙豆いるよこれ・・・
※アニメ「ドラゴンボール」に描かれている架空の豆。体力を回復させる効果がある。
バッティングを終えると、今度はキャッチャー防具をつけて登場。初めて見せる姿だった。

イチロー:笑わないで(笑)これはなかなか斬新でしょ。
過去に一度、ブルペンでキャッチャーを頼まれたことがある。またあるかもしれないと、備えを万全にすべく、自分のミットも用意した。
イチロー:おお。キャッチャー大変だよね。これで動くんだもんね。いや大変だと思う。(キャッチャーゴロを処理する動作)これでこうやって、あはは(笑)これでベースカバーこうやっていくんだもん、すごい、キャッチャー尊敬するわ。
大変とは言いつつも、どこか楽しそうだ。
記者:しかしそんな滅多におこらないことのために練習・・・
イチロー:あるからね。だからその時できないって言いたくないでしょ。それは絶対に嫌だ。
野球を極める道に、終わりはない。
レジェンドにとって特別な場所
湖に面した自宅には桟橋があり、その先に立つと、感覚が研ぎ澄まされていくというイチロー。

イチロー:さあ、イーグルさんいるかな~。うわ~今いないな~。ここね、イーグルもそうなんだけど、ビーバーの巣になってたり、アライグマ来たり、いろんな動物が集まってくるんですよ。ちょっとなんか、軽いパワースポットっぽい雰囲気が好きで。これ癒されます。ここは特別な場所です、僕にとっては。
イチローは鷲の姿を探した。その横顔が、フィールドに立つ時にも似た乾いた風を受けていた。