野坂昭如さんが紡いだファンタジー
朗読役はもう1人いまして、田中富士夫さんです。
【田中富士夫(語り)】
1980年より劇団テアトルハカタにて演劇を学ぶ。今日まで43年間役者、タレント、マネージャーとして芸能の世界に携わる。舞台「つりしのぶ」、「キューポラのある街」、「火曜サスペンス劇場」、「東芝日曜劇場」、ラジオドラマ「NHKFMシアター」など。
田中さんが冒頭、この舞台の意味を紹介してくれました。
(朗読)
戦時中の1943年(昭和18年)8月16日、空襲による爆撃で檻が破壊し猛獣類が脱出する恐れがあるとして、東京都は上野動物園に「1ヶ月以内に猛獣を殺処分せよ」と「戦時猛獣処分命令」を出しました。そして、日本中の動物園の猛獣たちの殺処分命令も下されたのです。わが子のようにいつくしんで育てた動物たち。自分を信頼しきっている動物たちの命を、自らの手で殺さなくてはいけなかった飼育員と職員たち。これは動物園史上、最もおぞましい殺害劇となったのです。
実はこの命令には、動物たちの悲劇的な死を国民に知らしめることで、戦況悪化の覚悟を求め、敵国に対する憎しみを倍増させるという、軍当局の意図が背景に隠されていたのです。
非常に悲しいというか、おぞましいというか……。実際に、熊本の動物園では象が殺害されていて、その時に目撃した少年がまだ生きておられます。お父さんがゾウの飼育員だったのです。この金澤敏雄さんにリュンコさんたちは会いに行って、聞き取りなどもされています。殺害を命じられたお父さんが実際に電気ショックを与えて命を奪うところを金澤少年は見ていたのです。
オリジナルの音楽に乗せて
このファンタジーの中で、象使いの小父さんは餓死させるように命じられましたが、こっそりと食事を与えてしまうのです。でもばれてしまう。いよいよ殺害を迫られた時、小父さんは象を連れ出して郊外の山の中に匿った……そんな物語なのです。2人の朗読に音楽が乗ってきます。ピアノとバンドネオン、それからコントバスです。
(演奏と朗読)
サーカスから動物園とせまい檻の中でばかり暮らして来た象は、はじめ元牧場の、その広さにとまどっていましたが、なれてしまうと四方八方に走りまわり、自分のスピードにびっくりしました、今まではただのそのそ歩くだけでしたから。
春めいて来ると、あたらしい木の芽や、若草など、乾藁とくらべものにならない御馳走が一面に用意され、鳥の声だって動物園で耳にしたのとちがい、一段と澄んでいます。象は、ただ無邪気にはしゃいでいたけど、小父さんは常に四方に眼をくばり、だって、日本の山奥に放し飼いの象がいるなんて分かったら、いくら非常時だって、とんでもない騒ぎになります。
「放し飼いの象」が誕生してしまった……まさにファンタジーです。実際にはなかったことですが。音楽も軽快で、「いくら非常時だって、とんでもない騒ぎになります」なんて感じで語られます。曲は全部、オリジナルで創作したものです。作曲したのは、ピアノを担当した矢田イサオさんです。
【矢田イサオ(作曲・ピアノ)】
長崎市出身。大学在学中ニューオリンズ・ジャズフェスティバルに出演。第7回イムズ・ジャズバンドコンテストにてグランプリ。九州各地のCM、イメージソング、よさこい楽曲の制作や、CMナレーション等で活動。現在、「カワムラ☆バンド」のピアニストとして、全国各地で精力的に活動中。
バンドネオンの川波幸恵さんは、今回この番組にも出ていただきましたけど、素晴らしかったです。アコーディオンのような楽器で、タンゴの伴奏楽器として知られています。
【川波幸恵(バンドネオン)】
宗像市出身。第1回チェ・バンドネオン世界大会優勝者。福岡女学院、東京音楽大学卒業。劇2020年夏、地元福岡で「タンゴ三姉妹+」を結成。「アストル・ピアソラ国際音楽コンクールトラーニ2021」アンサンブルの部で優勝。
朗読にこんなリズムが乗ってきます。音楽は非常に楽しく、そして悲しく、朗読を盛り上げていきます。
【杉泰輔(コントラバス)】
1971年生まれ。20代後半よりプロとしての活動を開始。福岡市を拠点に活動中。中洲JAZZ、宗像JAZZ、Art-plex熊本などの大規模なイベントへの出演も多数経験している。














