四半世紀ぶりの円安1ドル140円台突入(9月5日時点)。物価高に追い打ちをかけるエネルギー価格の上昇。いよいよ危険水域に入り込んだといわれる日本経済の今と今後を議論した。
■「これほど有利な取引は人生でめったにない」
アメリカの日銀総裁に当たるパウエルFRB議長は、インフレの抑制をやり遂げるまで金利を上げると強硬姿勢を見せた。実際、今アメリカ金利は2%台半ばだが、今年中には3%台後半まで引き上げるとの憶測も飛び交う。一方で、日本の日銀総裁は相変わらずゼロ金利を貫くと明言。黒田総裁曰く「金融緩和を行う以外に選択肢はない」。市場関係者の間では“意固地”とまで言われている。
こうした日米中央銀行の真逆の方針の中で利益を得ているスイスのヘッジファンドを直撃した。彼はこの2か月のドル円相場で、33億6000万円ほど儲けたという。
EDLキャピタルCIO エドゥアール・ドラングラード氏
「円安は170円まで行くかもしれません。そこで私は円売りを増やしました。これまで350億円分くらいの円をドルに換えてきましたが、今は490億円分の円をドルに換えました。(中略)
もし日米の金利差が4%か5%になれば、日本人も皆、円を売ってドルを買うでしょう。そうすればドルは上昇を続け、円は下落し続けます。ここまで有利な取引は人生でも滅多にありません。(中略)日銀が長期金利を抑え続けていると、インフレは手が付けられなくなり、日本は一晩でハイパーインフレになる可能性があります。日本人はこの政策によって貧しくなるでしょう」
ぞっとするような話だが、元日銀理事はさほどあわてなかった。
元日本銀行理事 早川英男氏
「言ってることに正しい面もある。確かに長期金利を動かさないと、その分だけ金利差が為替に出る。日本が、びた一文動かさないと言ってるから為替変動が大きい。今そうなっている。だから少し動かしてあげれば為替はそんなに動かない。そこの部分は正しい。ただ彼は極端すぎる。私も140円くらいにはなると言っていた。だからまぁ予想の範囲内。こう言っちゃなんですけど、ヘッジファンドで33億円ぽっちしか儲かってないんだ、っていうのが私たちの感じです」
と、鼻で笑った早川氏が、まじめな表情になって、本当の不安を語った。
■「恐れるべきは、日本人が円を売る時」
元日本銀行理事 早川英男氏
「いちばん怖いのは、近い将来にあるとは考えていないんですが、恐れるべきは日本人が円を売る時、これが一番怖い。日本人が財産を外貨に換える、これが怖い。本当に激しい円安が起こり、インフレになります。もし日本人が円から逃げたら、ドラングラードさんが言うように170円も超え、ハイパーインフレになりますよ。でも近い将来にそうなるとは思っていません。
(中略)南米なんかは自国民が自国通貨を売ったからハイパーインフレになったが、日本はまだそこまではいかない。でもちょっとだけ気になっているのは、NISAなんかで日本株買う人少ないでしょ。米株買ってるんですよ。こういうのが広がって、どっかでキャピタルフライト(資本逃避)が起こったら怖いなって・・・」
経済評論家の加谷珪一氏は、ヘッジファンドが言うことは、市場で自らに利益が出ることを望んで発言する“ポジショントーク”の側面が強いとした上で言う。

経済評論家 加谷珪一氏
「アメリカは金利を上げる、つまりドルを回収する。出回るお金を少なくする。日本は金利をゼロにしてお金を大量にばらまくという政策。当然出回る量が多い日本円の価値は下がり、ドルの価値が上がるというのは事実です。ですから、この状態が進めば、マーケットの反応次第ではもの凄く円安が進む可能性はあります」
通常円安であれば輸出産業にとっては書き入れ時となり、昔のように貿易黒字が見込めたが、高値で推移するエネルギーを輸入しなければならない日本にとっては経常赤字を招きかねない。ところが、この円安基調が意外なビジネスチャンスを生んでいた。