台風5号の上陸から12日で1か月です。
岩手県内で初めて緊急安全確保が発令された久慈市の長内川流域では、大幅に水位が上昇し、氾濫の危険が迫っていました。
台風の上陸に備え事前放流を行い住民を守った滝ダムを取材しました。
久慈市小久慈町の滝ダムです。

久慈市内を流れる長内川の水害を防ぐことと水力発電を目的に1982年に建設された岩手県管理のダムです。
また、ダムの下流には太平洋を望み、全国でも珍しい「海の見えるダム」としても有名です。
8月の台風上陸直前、滝ダムの岩手県職員らはいち早く危機を察知しました。

(滝ダム管理事務所 阿部光寿所長)
「降雨量の予測が滝ダムの基準を上回るということが事前にわかりましたので…」
岩手県管理のダムでは貯水量の調節を行うため、上流の降雨量を3日先まで予測しています。
しかし、台風直撃の3日前、その累計雨量がダムの基準の水量を超える予報に職員たちにも緊張が走りました。

(阿部所長)
「降雨量の予測を最初見たときはちょっとこれまで見たことないぐらいの降雨だったので、本当に信用できるのかっていうような気持ちもありましたけれども…」
(米内貴大技師)
「見たことないです。ダムが作られてから初めてそれぐらい大きい数字が出たのかなと」
この予報を受けダムを管理する県は県内で初めての事前放流に踏み切りました。

事前放流とは大雨が予測される場合に発電など利水のために確保した水を放流し、ダムの貯水位を下げる操作です。
近年全国的に頻発する集中豪雨を受けてその規定が整備されているもので、県の管理する10のダムに関しても2020年度までにすべてのダムで利水者との取り決めがなされています。

滝ダムは8月10日から11日にかけてゲートを開放して事前放流を行い、台風上陸の前にダムの基準とする最低水位54.3メートルをさらに9.4メートル低減させました。

(阿部所長)
「徹夜ですね。2日ぐらいしたかな、本当に緊張感がある時間を過ごしておりました」
職員らは昼夜を問わず水位を調整し、住民へのサイレンでの広報やパトロールも行って流域を見守り続けました。
(8/12 佐藤記者レポート)
「激しく降った雨の影響で市内にはきょう午前10時半、長内地区と小久慈地区の2つの地域に緊急安全確保が発令されました」
8月12日午前10時23分、降り続いた雨によりダムは満水直前となりその安全性を確保するため、流れ込む水量をそのまま下流へと流す緊急放流が始まりました。
氾濫の危険性が高まったため、直後の午前10時半には流域地区に緊急安全確保が発令されました。

(小久慈市民センター 横道知亮所長)
「正直びっくりしてですね、大丈夫なのかなというふうに思ったのが、一番ですね」
避難所として開設された小久慈市民センターの横道知亮所長です。
このセンターには、緊急安全確保の発令前は主に高齢者の24人が避難していましたが、緊急安全確保の発令後は若い世代や子供連れの家族も増え、12日正午時点で最大38人が避難しました。

(小久慈市民センター 横道知亮所長)
「(今回は)事前放流していただいたし、情報も伝えていただいてたと思いますので長内川の氾濫までには至らなかった(滝ダムは)小久慈の自慢の施設でもある。
一方で災害、大雨が降ると備えが必要になる」
今回の台風により、滝ダムのピーク時の水位は最大で34.3メートル上昇して79.2メートルとなり、最高水位の82メートルまで残り3メートルほどに到達しました。
また、下流の長内橋地点の観測所では4.33メートルの水位を記録し、氾濫が始まるとされる水位まで残りわずか5センチでした。
結果的にダムの決壊も長内川の氾濫も免れた今回の台風直撃。

(県河川課 菊地博課長)
「もしもダムがないと想定した場合、氾濫が始まっていただろうと想定されています。事前放流した効果というのがやはり大きかったのかなというふうに考えておりますので」
河川の氾濫という最悪の事態を防ぐことのできた今回の事前放流。

ダムだけでなく流域の住民も一体なって今回の教訓を生かし、次に起こる災害への備えとしていかなければなりません。