上杉会長の公開手術

上杉会長の公開手術に話を戻しましょう。

上杉会長は冠動脈の前下行枝と回旋枝に狭窄があり、また虚血性僧帽弁逆流を患っています。行う手術はスナイプによる僧帽弁置換術と前下行枝と回旋枝のダイレクトアナストモーシスです。スナイプは左第4または第5肋間開胸(左の上から4または5番目の肋骨の間)から行いますので、佐伯先生が行ったオペの創とは違う創となります。

スナイプによる僧帽弁置換は無事に終わり、ダイレクトアナストモーシスに移るのですが、このスナイプの創を少し上に延長すると左冠動脈が見えてきます。天城先生は「ジュノ開胸しといて」といっていますが、これは「ジュノ、スナイプの創を上に少し延長して開胸しておいて」ということです。

天城先生は左内胸動脈を採取して、ダイレクトアナストモーシスに移ります。ここで天城先生は(後にわざとと判明しますが)冠動脈主幹部(分岐部)をメッツェンで傷つけてしまいます。ここを傷つけてしまうと、前下行枝と回旋枝両方の血流が落ちてしまいますので一刻を争い、すぐに処置が必要です。そこで天城先生はダーウィンを使用し2箇所同時にダイレクトアナストモーシスを行うという佐伯先生との共同オペを行うのです。

天城先生は8-0をもらい冠動脈の裂けたところを縫合して出血を抑え、前下行枝のダイレクトアナストモーシスに取り掛かり、ダーウィンは回旋枝のダイレクトアナストモーシスを行います。

「冠動脈の分岐部の癒着がすごかったんだ、これたぶん裂けちゃったよ」のセリフの言い方と高階先生に目線をおくるところは本当の外科医のような雰囲気でゾクゾクしました。即座に人工心肺を回そうとする世良先生の成長は著しく、天城先生の指示なしで鼠径部(足の付け根の部分で、大腿動脈と大腿静脈があり人工心肺を回すことができます)を開けて人工心肺を回すところは流石としか言えません。

ここで何故人工心肺を回すかと言いますと、冠動脈主幹部が裂けると先程言った通り左冠動脈の血流が落ちてしまい心臓の機能が低下します。すると全身に血液を流せないんですね。そのために心臓の代わりとなる人工心肺を回さないといけないわけです。またこの場合、左側開胸で左肺を虚脱(空気を入れていない状態)しており肺の機能も弱い状態となりますので、尚更人工心肺は必要なのです。また人工心肺を回すことにより術野に出た出血はサクションで人工心肺に回収することができるので出血をコントロールすることも出来るんです。

人工心肺を回し、ダーウィンのセッティングが完了すると天城先生は出血を落ち着いて縫合止血します。この時のセリフの合間にメッツェンも、さらっと言ってくるあたりはもうすでに外科医。なかなか喋りながら作業して、途中で指示も出すって難しいのですが、普通にやっているんですよね。

あと天城先生の糸結びなんですが、いつからか忘れましたが左手にマイクロセッシを持ちながらやっています。これは何のアドバイスもしてないのですが、自然にやっていて結構凄いことです。なかなかセッシを持ったまま糸を持つことは難しいので、本当に慣れている外科医しかやらない技。同僚の心臓外科医もびっくりしていました。

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イムス東京葛飾総合病院 心臓血管外科
山岸 俊介

冠動脈、大動脈、弁膜症、その他成人心臓血管外科手術が専門。低侵襲小切開心臓外科手術を得意とする。幼少期から外科医を目指しトレーニングを行い、そのテクニックは異次元。平均オペ時間は通常の1/3、縫合スピードは専門医の5倍。自身のYouTubeにオペ映像を無編集で掲載し後進の育成にも力を入れる。今最も手術見学依頼、公開手術依頼が多い心臓外科医と言われている。