◆種植えは1か月後に やることは山積み

オクラを植える準備が進む農地

アインは避難民の若手の中でも行動力があり、皆から信頼されている。農園にはいろいろな背景を持った避難民がひっきりなしに訪れ、生活上のさまざまなトラブルをアインに相談する。

ミヤワディ周辺で戦闘が激化して以降は、焼け出されてしまったいくつかの家族をこの農園で受け入れることもしている。

そんな彼に対して、私は心から尊敬の念を抱いているが、同時に、「彼と信頼関係を築き、一緒に事業に取り組むことが出来れば、彼と繋がっている多くの避難民もこの事業のことを理解し、参加してくれるようになるのではないか」と、少し打算的かもしれないが、そんな期待もしていた。

アインと一緒にオクラの栽培を始められることは、この事業にとって大きな意味を持つと思われる。しかし、すべてはオクラの栽培に成功してからの話だ。

協力企業の担当者と打ち合わせ

企業側の担当者に国境地帯を訪れるタイミングを調整してもらい、栽培方法を避難民にレクチャーする日も決めた。

種を植えるのはおよそ1か月後。それまでに畑を整備して、水を確保して、作業にあたる人員を集めなくてはならない。

やらなくてはならないことが山積みだ。「成功させなければ」というプレッシャーも感じるが、やるべきことが分からないもどかしさからようやく解放されて、心はむしろ晴れやかだった。
(エピソード6に続く)

*本エピソードは第5話です。
ほかのエピソードは以下のリンクからご覧頂けます。

#1 川を挟んだ目の前はミャンマー~軍の横暴を”許さない”戦い続ける人々の記録
#2 野良犬を拾って育てる避難民
#3 農園の候補地を下見 タイ人の地主に不審者と間違われる
#4 治安の悪化のニュース そして深夜に窓を叩く音 恐る恐る外を覗くと・・・
#5 オクラを作ろう!ようやく動き出した事業
#6 アインの妻が妊娠 生まれてくる子供の未来は
#7 オクラの栽培がスタート しかし”目の前が真っ暗”に…支援とビジネスを両立する難しさ
#8 協力企業の撤退で振出しに戻った事業~日本にいる間に考えたこと
#9 違和感ぬぐえぬ、福岡市動物園ゾウの受け入れ
#10 農園での結婚式~困難の中にあってもそれぞれの人生を生き抜く人々

◆連載:「国境通信」川のむこうはミャンマー~軍と戦い続ける人々の記録

2021年2月1日、ミャンマー国軍はクーデターを実行し民主派の政権幹部を軒並み拘束した。軍は、抗議デモを行った国民に容赦なく銃口を向けた。都市部の民主派勢力は武力で制圧され、主戦場を少数民族の支配地域である辺境地帯へと移していった。そんな民主派勢力の中には、国境を越えて隣国のタイに逃れ、抵抗活動を続けている人々も多い。同じく国軍と対立する少数民族武装勢力とも連携して国際社会に情報発信し、理解と協力を呼びかけている。クーデターから3年以上が経過した現在も、彼らは国軍の支配を終わらせるための戦いを続けている。タイ北西部のミャンマー国境地帯で支援を続ける元放送局の記者が、戦う避難民の日常を「国境通信」として記録する。

筆者:大平弘毅