円安物価高で個人消費に影
円安への懸念の声があちこちから出てきている。
今年1月から3月期のGDP国内総生産は年率換算で2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。内訳は個人消費が大きくマイナス、設備投資もマイナス、輸出もマイナス。総崩れの状態だ。個人消費はコロナ明けから1年間マイナスのままだ。

経済財政諮問会議 民間議員 中空麻奈氏:
残念だが、救いは1‐3月期の数字。4‐6月期になると回復するという期待はある。
春闘で賃上げが見えてきたのは3月、6月になると定額減税の効果も出て、賃金が上がって見えるという効果が出てくる。そうなると、やっと賃金が上がってきたのかなという実感が私達の間で共有されるようになる。そうすると、消費ができるのではないかという期待感もあるので、ここからは少し改善するのではないかという期待はあるが、確かにこの数字は残念なものになっていると思う。
消費の弱さはこの1年、物価高に賃金上昇が追いつかなかったから。さらに円安が加わっている。この円安が与えている日本経済への悪影響の度合い、内容をどう見ているか?

中空麻奈氏:
やはり円安は為替なので動くもの。円安になったときは、何がプラスで何がマイナスかを考えなければならない。過度に円安になったときには、輸入物価がまず上がってしまい、物価高になっていく。輸入品は私達の周りに溢れているので、毎日の生活ではどちらかというとネガティブな感触になる。ただ基本的には企業業績が好調である大きな理由は円安。株も上がっているので、円安はもっとエンジョイすべき。
円安の副作用もあるが、円安のメリットを享受する策が少なすぎので、円安の効果をプラスにするようなことを考えるのが先決。ただやはり問題は大きいし、国として円が強いのは重要なポイントなので、信用力の維持のためにも、やはり円は確実に強く持っていかなければならない。
経済財政諮問会議でも中空さんは「日本銀行におかれても、物価見通しに基づく金融政策を行う方針を出して円安圧力を緩和してもらう必要があると思う」と発言している。
中空麻奈氏:
今の円安の理由は、日米の金利差にあると思う。それだけではないが、アメリカの金利が高すぎるのに日本の金利は低すぎる。この差で今の為替水準がある程度決まっているのだとすると、日本、日銀ができることは金利を上げてもらうこと。アメリカは当分金利を下げられないと思うので、日銀ができることありますよね、という気持ち。
できることがあることを示すというのは、とても大事なポイントになってくる。こんな水準で放置しない、日本政府として考えていることを示してもらいたいと思う。
この発言のとき、植田総裁の反応は?
中空麻奈氏:
静かだった。あえて反応しなかったと思った。
岸田総理は、円安への懸念を共有していたか?
中空麻奈氏:
懸念はあると思うが、政府としては懸念するばかりではなく、円高になったらそれはそれでまた問題も出てくるので、円安をどううまく享受するか、そのメリットを政府、総理にはもっとやってもらいたいと思っている。
円安メリットを享受するとはどういうことを指している?

中空麻奈氏:
例えばインバウンド。年間3000万人の外国人が来日するという想定ではあるが、早くもメディアがオーバーツーリズムを盛んに伝えている。
もっと先にインバウンドで来てもらってからで良いのではないかと思う。来てもらった人たちにどうやってお金を落としてもらうか、例えば消費税の還付(免税)をやめてしまうとか、入国するときに入国税を取る等、色々なやり方がまだあると思う。
円安で国がどのようにお金を享受するかを考えながら、一方で国としては、強い円がいいということを示していく、戦略的に両方ともどううまく取り込むかということだと思う。
今までは国として日本の円の価値が上がっていくことはいいこと、というのが憚られた時代が長かった。安くなっていい、と言い過ぎた?
中空麻奈氏:
強い通貨はそれぞれの国の国益であると、トップの人の言うべきセリフ。それはどこの国においても同じ。日本においてはやはり円が強いことが重要だと言わなければいけない。
円と国の信用力は一緒ではないが、似たようなところがある。やはり円の強さがないと、日本国としては落ちていくことを認めているようにも見えてしまうので、しっかりと打ち出していくべきだと思う。
そこの信任に対する決意を市場にわかってもらうことが必要?
中空麻奈氏:
過度な円高を目指すのではなく、バランスを取って政策をとっていく。
円安は円安で長期化するようであれば、そのメリットを受け取るために様々なことができると思う。

今までは業績に良い影響を及ぼしていた円安が、今度は心配の種になってきているのが、働く人の景気ウォッチャー調査を見ても分かる。先月の調査では、景気が良いと答えた人から悪いと答えた人を引いた景気の現状を示す指数が47.4となり、2か月連続で低下し50を割っている。


SMBC日興証券がまとめたトピックスを構成する企業の今年3月期の決算、売上高の総額は前の年と比べて5.3%増の604兆4441億円、純利益は15.4%増の40兆7233億円。
25年3月期の見通しは事前の予想を下回った企業の方が遥かに多く、予想増益率は2.4%の減益になっている。
中空麻奈氏:
もちろん企業が出す決算見通しは最初に下振れておいて、途中で上振れて上方修正した方が株価的には上がるということもあり、割と控えめ。
ただし、今の現状があまり強くないことや、アメリカの景気がトーンダウンするのではないかという懸念も持っているので、それを加味していくと上がる、増益になるというよりは、どちらかというと慎重に見る方がメインシナリオになっていくことを示している思っている。
そうなると今期はもう増益しないから賃上げも期待できない、とならないか?
中空麻奈氏:
このままでは駄目なので、テコ入れをする。どうにかしてもらわなきゃいけない。
これから業績が悪いから、景気が悪いからそのまま業績不振になる、というのも工夫がなさすぎるので、景気が悪いなら悪いなりでどうやって利益を上げていくのか。
コストを下げるのもそうだが、もうコストを下げる時代は終わった。それこそ価格に転嫁をして利益を上げていく工夫を、企業はしていく必要がある。
日本経済はかなり正念場。経済運営は実質所得をプラスに転じさせ、1回限りではなく今後も続くという確信を人々に持ってもらって需要を拡大していかないと好循環にならない。そのために6月の骨太方針に向けてどういうメッセージを政府は出していくべきか?
中空麻奈氏:
2本柱で、1本は成長しようという、成長シナリオを打ち出すべき。
脱デフレ、インフレになっていく、金利がある世界になってきたわけで、これは本当に30年ぶりの、私も初めて見たような金利上昇なのですごいことが起きている。
その割には淡々と過ごしすぎてるので、世界の投資家の目線が集まっている今こそ、景気は本当に良くなる、成長するということを見せてもらいたい。
GX投資をすることになると、どの勝ち筋にいくら払っていくのかを見せてもらいたい。これが1本目の成長の部分。
もう一つはイノベーションだと思う。こんなことで工夫をしていくということをもっと機運として高める。この二つが重要だが、骨太方針になってくると、社会保障や医療など多くの骨子がある。どれも大事なことだが書きすぎて冊子が膨張していくと、何が大事かよくわからなくなってくる。
転換期の今だからこそ、本当に成長を見せることが一番大事だと思う。
長年のテーマだったデフレ払拭を達成した後の、経済が成長していくためのアクションプラン作りをしなければならない時期に入っていると。
中空麻奈氏:
本当にそうだと思う。
(BS-TBS『Bizスクエア』 5月18日放送より)
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<プロフィール>
中空 麻奈 さん
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部副会長
チーフクレジットストラテジスト
経済財政諮問会議の民間議員