完全自動運転開発はどこも互角。人類を前進させるためのグランドチャレンジ

――そもそもAIの道にどんなふうに入っていったんですか。

山本一成氏:
大学生のときに留年して、ちょっと暇になっちゃいまして。これから伸びる世界ってどういうのがあるんだろうと考えて、みんながあんまり信じていないけど、伸びる世界に飛び込もうと思ったんです。それがAIだったんです。私自身も当時AIというかコンピュータにそんなにポジティブな気持ちを抱いてなかったのをすごく覚えています。ちょうど15年ぐらい前かな。

私は将棋が好きだったので、将棋のAIを作ろうと思ったんです。将棋のAIは当時もそれなりに強くなっていたんですけど、名人には勝てないとみんな思っていた。いや、そんなことはないよなって。これは私が達成できるかどうかは置いといて、大きな流れでくると人間の脳にしかできない神秘って別にないよなと思って、将棋のAIを作ろうと。やってみたらすごく大変だったんです。全然強くならなくて。

東京大学在学中に将棋AI「Ponanza」の開発を始めた山本氏。それから10年をかけ、名人を倒すという偉業を成し遂げた。一体どのようにしてAIは名人を超えたのだろうか。

山本一成氏:
私自身が将棋のルールとか知識を教え込むんじゃなくて、コンピュータ自身が自分で自分を賢くする方法論、それ自体は私がコードを書いているんですけど、勉強の仕方を高度にプログラムすることによって飛躍的に強くなっていきました。

最終的に作ったシステムは、PonanzaとPonanzaが自己対戦して、その結果をフィードバックして自分を強くするというループをプログラムとして書きました。機械学習の一種の強化学習というものなんですけども、これをすると人間が知らなかった定石とか戦法とかを発見していくんです。

もちろんコンピュータとして、集中力が切れないとか高速に動作するというのもあります。それ以上に大きかったのが、人よりも実は将棋について詳しかった。名人と戦ったときは100億回ぐらい自己対戦していますから、その圧倒的知識を持って戦っていたんです。

――そこから、自動運転の方に変わっていったきっかけはあるんですか。

山本一成氏:
AIにとってのグランドチャレンジ、人類を前進させるためのグランドチャレンジというと、やっぱり自動運転って本当に大きな課題なんです。まだ完全な自動運転は人類誰も達成できていないというのを考えると挑戦すべき課題だし、未来から見たら普通にあるべき形だと思うんです。となると、やっぱりやった方がいいかなと思ってこの領域に来ました。

山本一成氏は最先端のAI技術を駆使し、人がハンドルを握らなくても目的地に行ける車を目指している。そんな山本氏にとってのライバルが、EVの巨人と呼ばれるテスラだ。

――イーロン・マスク氏は相手としてはかなり大変なのでは?

山本一成氏:
Turingは「We Overtake Tesla」、テスラを超えるというのをミッションに掲げているんです。彼らの方向性とか特に技術的な方向性に非常に敬意を抱いていまして、それにちゃんと追いついていきましょうというのが、このスタートアップが大きくなっていく上での最初の過程かなと思っています。

――テスラをどんなふうに超えていくのでしょうか。

山本一成氏:
すごくすごく遠い目標です。5年とか10年で抜かせるような目標じゃないと思っています。一方で忘れちゃいけないのは、テスラの創業って20年ぐらい前なんですよね。我々だって本当に小さいところから始めても、すぐ大きくなるっていうのは不可能ではないはずっていうのは最初に忘れちゃいけないことかなと思っています。追い抜くのは20年ぐらいかかるんじゃないですか。

――でも、追い抜けそうなんですね。

山本一成氏:
将棋のAIを始めたときって私、キーボードが正しく打てないところからだったんです。そう考えると、根気よくやっていくと、それが正しい方向性であれば意外と人って長く遠いところまで来られるんだなとすごく思っています。今回も冷静に考えると、テスラを追い抜くって馬鹿げているんですけど、根気よく一歩ずつ始めて。会社は2人で始めたんですけど、最初は何もなかったですから。車一つだって、全く作れる気はしなかったんです。未来から見たら、まだこのレベルだったんだってびっくりするようなことになるんじゃないかなと思います。

――山本オリジナル、日本オリジナルというものを目指しているんですか。

山本一成氏:
今ChatGPTみたいな生成AI、初めて常識を有していると言ってもいいようなレベルのAIが出てきたんです。そのAIを自動運転に転用しようっていうのは世界中で今いろんなプレイヤーが始めたところです。そういった意味ではどこも互角というか、始まったばっかりという意味で、我々もチャンスがあるかなと思っています。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年3月24日放送より)