日本銀行の植田和男総裁が18日の記者会見で発したメッセージは、追加利上げにより前向きなタカ派的姿勢を期待していた投資家を満足させられず、為替市場で円安が加速するきっかけになったとストラテジストらは見ている。

外国為替市場の円相場は日本時間18日夕に対ドルで一時157円台後半とニューヨーク市場と比べた下落率が1.2%に達した。日銀はこの日の金融政策決定会合で政策金利をこれまでの1%から1.25%に引き上げ、植田総裁は会見で「政策の局面が変化した」と述べると共に、利上げを継続する姿勢も改めて示した。

ただし、連邦準備制度理事会(FRB)が追加利上げも辞さない強い姿勢を示した米国との金利差などファンダメンタルズ面からの円安圧力に警戒感は強く、植田総裁の会見は相場を再度円高方向に変えるには不十分だった。

【ストラテジストらの見解】

リード・キャピタルのジェラルド・ガン最高投資責任者(CIO)

  • 植田総裁は市場の感情を落ち着かせようとしたが、短期的に円安が続くとの見方は変わらない
  • 日銀とFRBのフォワードガイダンスの違いも今後数週間の円相場にとって懸念材料になりつつある

T&Dアセットマネジメントの浪岡宏チーフ・ストラテジスト

  • 市場は植田総裁の発言の解釈に苦慮しているようだ。総裁が政策局面の変化と発言した直後は対ドルで上昇したが、足元は再び下落に転じている
  • 総裁の発言は、日銀が物価の上振れに対し慎重になっていることを示唆した可能性が高い。物価の乖離(かいり)は上にも下にも生じ得るとも発言しており、日銀の姿勢がタカ派的になったとは一概に言えない
  • 投資家は既に日銀がタカ派的になることを織り込んでいたため、今後円高や株安につながるかどうかは不透明だ

大和証券キャピタル・マーケッツ・ヨーロッパの経済調査責任者、クリス・シクルナ氏

  • 植田総裁による政策局面の変化に関する発言に投資家は驚くべきではない
  • 基礎的インフレ率が既に2%前後まで上昇しており、目標値を上回る水準で定着するリスクもあるため、日銀の政策判断が変わったことは以前から明らかで、声明や最近の氷見野副総裁の講演も示唆していた
    • 総裁の発言は懐疑的な人々に対しても極めて明確に示したことになる
  • 為替は日本の大型連休中もニュースフローに反応し続けよう。エネルギー価格は不確実要素で、FRB関係者による発言は米国の追加利上げ期待を強める可能性があり、ドルの押し上げ要因になるかもしれない
  • ただし、ドルの勢いをさらに加速させるきっかけになるようなマクロ経済統計の発表は予定されていない

ピクテ・ジャパンの田中純平投資戦略部長は

  • 政策運営の局面が変わったとの植田総裁の発言は、日銀が利上げペースを一段と加速させたという印象を与える
  • 長期金利が急上昇している中、インフレに対し日銀の政策対応が遅れるビハインド・ザ・カーブの懸念を払拭させるには不可欠なメッセージだ
  • 円には構造的な下落圧力かかっており、市場が来年半ばまでに見込んでいるFRBと日銀の利上げペースに大きな差がないことを踏まえると、今回の日銀会合の結果だけで持続的な円高につながる可能性は低い
  • 日本では連休期間中に取引量が減るため、投資家は日米協調介入の可能性にも警戒感を持っており、ドル・円の変動は激しく、方向感を欠く状態が続くだろう

ウェルズ・ファーゴのアジア太平洋地域マクロ戦略責任者、チドゥ・ナラヤナン氏

  • 植田総裁の会見はタカ派的な姿勢が少し見られたものの、市場の極めてタカ派的な期待を支えるには不十分だった
  • 引き続き2027年上期に50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)の日銀の利上げを予測するが、急速な利上げはないとみる
  • 短期的には日銀からのタカ派姿勢の欠如とドルの回復で、ドル・円は上昇基調、短期ゾーンの円債利回りに低下圧力がかかるだろう

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの駱正彦氏

  • 市場は審議委員2人の反対に過剰に反応すべきではない。ハト派メンバーによるもので、過半数は依然として植田総裁の金融政策正常化の路線を堅く支持している
  • 重要なのは総裁が将来的な政策措置の可能性を否定しなかったことで、全ての会合が重要な局面とのメッセージを強めた
  • ドル・円は戻り売りが基本の流れで、特に160円付近ではその傾向が強い
  • 円の中期的な方向性は日銀の政策正常化に伴う国内金利の上昇、円資産が投資対象として注目されることによる機関投資家の資金フロー、日本へのAI投資の増加という3つの構造的な要因に左右されよう

SMBC信託銀行の山口真弘投資調査部長

  • 植田総裁の会見が急激な円安進行を招くリスクがあったことを踏まえると、うまく対応したという印象だ
  • 2人の審議委員が利上げに反対したことは別として、日銀のスタンスはおおむね以前と変わっていないようだ
  • 総裁の説明は日銀が利上げペースを3カ月に1度へ加速させる市場の見方と整合しており、12月の追加利上げ予想を変更する必要はなく、円安傾向が続くとは予想していない
  • 債券や株式への影響も限定的となろう。債券については、高市内閣改造後の政府の財政スタンスが今後の焦点になる

--取材協力:横山桃花、日高正裕、堤健太郎、深瀬敦子、我妻綾、David Finnerty、アリス・フレンチ.

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